no title 2
□あふたーりぶ 前編
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あふたーりぶ
※いーちゃん→政府が開発したアンドロイド。
――人間はどうにもこうにも増えすぎた。もはや地球は満杯だ。
――こんなに沢山居すぎては、そのうち世界は破産する。
――どうしよう、どうしよう。
――………。単純明快な話だよ。
――え、
――簡単じゃないか。人口を減らせばいいんだから。
『殺してしまえばいいだろう?』
イカれた世界はロクでもない人間ばかりが集まる。
そのロクでもない人間に生み出されたぼくはきっと「最悪」な存在だ。
『人目につかないように、人口を減らせ』
これがぼくの生まれた意味であり目的であり価値だ。
政府の戯れのように造られ人間の皮を被り、そして任務を遂行する。
人を殺す。
そのためだけにぼくは作られ、その通りにぼくは人を殺してきた。
の、だが。
「いーたぁん、そろそろ風呂からトイレまで着いてくるの、やめたり出来ねぇのぉ……?」
「君ノ監視はぼくの最優先事項ダから」
「……監視っつーか普通にストーカーの域じゃんよ」
ある日唐突に現れたデータベースに無い殺し名、零崎人識。
ぼくの秘密を知られた以上殺すか監視するしか手は無く、彼は当然のように後者を選択した。
かは、と苦笑いで握手をした彼は、監視すればするほど人とは変わった人物だった。
徐々にデータベースに埋まっていくデータはぼくが今まで相手取ってきたどんな人物よりもずば抜けていて、更新されない日は無い。
昨日話したことと今日話したことが180度違っているのは日常茶飯事だし、すぐ笑うし、殺すし、ぼくには無いものばかりだ。
監視である以上、彼を視界から逸らすわけにも行かず、結果的には四六時中、共にしている現状だった。
「とっころでさぁ」
「何」
「俺がやっちまった首のそれ。治んねぇの?」
零崎人識は、シャワーから出て服を着ながら、不意にそんなことを呟いた。
ああ、と思い立って首筋を押さえる。彼と邂逅した際に負傷した、ぼくの「断面」が露出した部分だった。
「ラボに戻れば。でも戻りたくナイ」
「ふぅん」
ラボに戻ることと零崎人識の側から離れることは、ぼくの中でひどく矛盾していた。
零崎人識の監視は必至だ。だがラボで調整するようなことがあれば、その間に彼を自由にしてしまうことになる。
「他人」に任せるのも癪だったし、目立つもののぼく自身が破損したわけでもない。
放っておいても、がずるずると延びていた。
「じゃあコレやるよ、それ目立つし」
そう彼が少ない荷物から取り出したのは、趣味の悪い色合いのネックウォーマーだった。
ぽすん、とぼくの頭から被せて、にこりと笑い親指を立てる。
「結構似合うな」
「……」
彼は本当に変な人間だ、と人工知能をもってして判ずる。
ぼくのようなアンドロイドに目をかけて、監視されてる側にも拘らず軽い冗談のような文句しか言わず、その上。
ぼくに慣れ親しもう、なんて。
「戯言、ダ」
「えっ、いやいや、マジで似合ってるって」
力強く彼は言いなおし、改めて笑った。
かはは、と。邪気のない、綺麗な声で。
「……零崎人識」
「フルネームはやめろよなぁ。せめて苗字だろ、苗字」
「零崎」
「そーそー」
「……ドうも」
「おう」
全くロクでもないことに巻き込まれた。
というのが、政府開発試作型アンドロイド「壱」とのファーストコンタクトを果たした零崎人識の感想だった。
『今、ここで爆死するか。発狂するまでぼくに監視さレ続けルか』
自爆に巻き込んで彼を死に追いやろうとした「壱」からの妥協案に、彼は一にも二にも無く飛びついた。
「なんつーかいーたんも随分人間らしくなったよなぁ」
己の与えたネックウォーマーにもふもふと顔を埋める「壱」の姿を見ながら、零崎は首をかしげた。
監視当初からの丸ごと一日の監視体制は変わらないものの、関係性が変わってきたことは彼にもよくわかって来た。
懐かれた、みたいな。
そんな感覚だ、と零崎は呟き、安宿の部屋を出て行こうとした。
「何処へ行ク」
「いーたんにあげちゃったから俺もネックウォーマー買いなおすの」
「ぼくも着いテく」
「わーかってるよ。いい加減慣れたわ」
早速貰ったばかりのネックウォーマーをきつく顔まで上げて破損箇所を覆い、「壱」は零崎の後を追い始めた。
「……なんか、カルガモ親子」
「何か言っタか」
「なんでも」
――監視ってのも嫌な響きなんだけど。感覚的には金魚の糞、だよなぁ。
零崎はかはは、と笑い。
「いーたん、ネックウォーマー選んでよ」
「……構わナい」
取り敢えずは。まだ。
と、奇妙は共同生活を惰性で飲み込む事にした。
▼世界は劇的に出会いを促す