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□戯言遣いの厄日
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戯言遣いの厄日


 ※ラジカルで出夢くんが生き残った設定。



 想影真心によって粉砕された骨董アパートが復活し、尚且つ新築マンションとして生まれ変わったのは、さながら瞬間芸のごとき速さだった。

 僕が元の住人たちと共に家賃の高くなったそのマンションを住居とし始めた、次の日。

 
 変わった来客があった。


「やっほーぉ、お兄さん。イイトコ住んでるじゃん! うっらやましーぃ!!」

「よぉ、欠陥」

「………出夢くんはともかくとして、君にこんなに早く再会することになるとは思わなかったな、零崎」

「かははっ、そりゃお互い様だっつーの。俺だって出夢に言われなきゃこんなとこ来ねぇよ、頼まれたって」

「つまり出夢くんの頼みだから此処に来たと。随分とまぁ骨抜きにされてるんだな」

「うっせぇお前ほどじゃねぇ」

「僕を無視して話しないでよお兄さん。人識は僕のお供で来てるんだからよ」

「あぁ、ごめんごめん」


 インターホン(なんて現代的な防犯設備!)を押されて開けた扉の先には、出夢くんと零崎。

 立ち話もなんだろうと、部屋の中へ招き入れる。

 骨董アパートだった頃の僕の部屋を知る零崎は、足を踏み入れるなり、おお、と感嘆の声を漏らした。


「物がある!」

「いやまぁ、これだけ広くなれば買う気になるからね」

「え、お兄さん昔これ以上になかったの?」


 出夢くんが驚愕の声を上げた。

 何を隠そう、住み始めたのは昨日。

 なんだかんだといったところで、家具はテレビと洗濯機、請負業を始めるに当たって潤さんから貰ったキャビネットとデスクの一式セット、だけ。

 ……まぁ、これ以上増やすつもりも無いのだけど。


「で、何しにきたんだい、出夢くん」

「んー……お兄さんにお礼?」

「お礼?」


 礼を言われるようなことはした覚えが無い。

 ましてや、そこに零崎を伴わなければならなかったわけも分からない。


「お兄さんのおかげで、ヨリ戻せたからっ」

「………零崎?」

「おお」

「どういうことか説明してくれない? 君確か、好きな人なんていないとか言ってなかったっけ昔」

「………戯言だぜっ!」

「誤魔化すな」


 しかも僕の台詞だそれは。


 出夢くんはにやにやと笑いながら零崎をどつく。

 零崎は観念したように大きく溜息をついた。


 なんだか修羅場の始まりそうな予感に、僕はそっと席を立つ。来客にお菓子を準備。

 取り敢えず引越し祝いに貰った珈琲を開けるとして、お菓子は……うん、おたべでいいや。

 適当に準備してお湯を沸かしてインスタントコーヒーを淹れて、戻ってくる。

 喧々とした零崎と出夢くんの間に割って入り、珈琲とおたべを提供した。


「取り敢えず落ち着こうか二人とも。ほら、飲み物」

「あ、ありがとーお兄さん」

「……水じゃない!」

「失敬な、僕だって成長するんだぜ?」

「客に出すのが水だったって点は成長じゃなくて退化であってつまりお前は今普通になったんだよバーカ」

「酷い言い様だ」


 と、そんな会話もそこそこに零崎が一番におたべに手を伸ばした。

 食べようとしたところで、出夢くんの長い腕が零崎の口を塞ぐ。


「ひゃにふふだよ!!」

「僕も食べる、ちょーだい」


 あーん、と口をあける出夢くん。

 渋々と零崎がその口の中におたべを放り込んだ。


「ん、おいしっ」

「そりゃ良かったな」


 ……と。

 口元に当てられていた手をとって。

 零崎が。

 出夢くんを引き寄せて。


 キス。


「……………」


 ……っは、フリーズ!


 人目(主に僕だけ)(と考えると鏡の目なわけだから、零崎には関係ないのかもしれない)を憚らずに濃厚なキスを続ける零崎と出夢くん。 

 
 しかし、零崎が異様に上手い。ように見える。


「ちょっ、人識っ……」

「俺の甘味奪っといてただで済むかっての」

「でもっ、」

「いーじゃん、俺が出夢とキスしたくなったんだよ」

「……バーカ」


 ………。

 えいやっ。


 熱い珈琲のマグカップを零崎の頬に押し付けてみる。


「うあっち!! 何すんだよ欠陥!!」

「二人って仲いいよね」

「そっか?」

「うん」

「で、急にどしたんだ、お兄さん」

「いやあのね?


 仲いいのはわかったから僕を挟んで会話しないでもらえる?」


「「えー。」」



 取り敢えずキスについてはもうだんまりを決め込むとして。


「ラブコメなら余所でどうぞ」


 せめてもの家主の意地として、僕はそう無表情に言った。





 

 

▼甘い甘いお菓子をどうぞ

 
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