no title
□ファーストコンタクト
1ページ/1ページ
ARAGO でセスと刑事さんを幸せにする企画。
参加させていただき有難う御座いました!!
HP→http://happinessplan.web.fc2.com/
ファーストコンタクト
目の前の彼は、苦り切った表情で酷く曖昧な笑みを浮かべた。
彼を彼と認めず出逢った初対面だったことを覚えている。
優しいんですね、と突き放した言葉は少なくとも今も思っていることには変わりないし、その考えを改める日はきっと来ない。
只、当時と全く同じ気持ちで優しさを認識しているのか、と聞かれたらそれは否と言うほか無い。
当時の僕は他人なんてどうでも良かったし、だから彼についても優しいんですね、という皮肉しかぶつけた記憶がない。
じゃあ今はどんな感情を見出しているのか、と問われたならそれはそれで困りものだ。
この感情を認めた瞬間僕は変質することが目に見えていて、だから心の変化を頭が拒んでいる。
初めから分かりきった事だった。
心が望むものと頭が望むものはどうしたって一緒くたに存在する事は出来なくて。
「僕に感情なんて要らなかった」
世迷い言。
感情が無かったらこの世の中の荒廃した欺瞞に満ちたシステムを壊す意志は持てない。
無関心は死よりも死体らしい事を僕は知っている。
「でなかったら、こんなに馬鹿みたいに貴方を好きになる事なんて無かったのに」
「……セス」
「縛られる前にさっさと殺してしまえば良かった。
貴方をこんなに想って苦しくなるくらいなら、貴方に近付かなきゃ良かった」
呟いた言葉は苦い毒のようだった。
蝕むのは心。麻痺するのは本能。
理性が全部押し止めるのは彼へのどうしようもない想いで、自分の声が段々細く小さく涙声になるのが悔しい。
貴方が好きです。
そんな、人であればたわいのない一言は、悪魔である僕には重くて痛いだけだった。
「忘れて下さい」
「おい、」
「だって矛盾している。貴方にしたって僕に好かれても良いことなんか一つもない。
男に惚れられて気持ち悪いでしょう? ……以前、言いましたよね。
晒して下さいよ、貴方の本心。貴方が僕を拒絶してくれたら、きっと敵対関係に戻れますから。僕の心なんて排しますから。
「おい、勝手なこと言ってんなよ」
「誰が言わせてると思って……!!」
「落ち着けセス」
距離が、ゼロになった。
毒を発する僕の唇が彼に焼け焦げた。
「勝手なこと言ってんなっつったんだ。
お前の勝手な憶測で俺の気持ちを蔑ろにすんじゃねぇよ」
「……何を仰っているのか」
「いいか、今は俺は何も言わねえぞ。
お前自身が定まってないし、俺も中途半端にはしたくないからな。
……けどこの先、もし、もしも全部上手く行って俺とお前に障壁が無くなったら」
刑事さんは何も言わずにもう一度だけ、触れるようなキスをした。
ブリューナクは己が焼き焦がした傷を癒やしてその温もりを消し去った。
毒が、甘いソレに変わりつつあった。
却って痛かった。
そんな日が、来るなんて思えないから。
「……ええ、その時は」
穏やかな時間が横たわっていた。
全てのしがらみから解かれたのは僕だけで、彼は相変わらず彼の言うところの呪いの力を身に宿したまま。
オルクの力を失って、僕はただのセスになって、彼に触れるのは以前よりも痛みを伴うようになったけど。右手は触れられず、唇は粟立つけど。
「まさかそんな日が来るとは思いませんでしたよ」
「お前なぁ」
「夢物語でしたよね、初めは。全部見通されているのに、繋がることはない。
……それが、今、具現化されて此処にある。
僕が失ったものは確かに大きい意味だった。けど、肩は軽くなりました。
刑事さん、貴方の御陰で」
「そうかよ。
……あ、そうだ、セス。前にも言ったと思うんだけどな」
「アラゴさん」
「……わざとかよ、ったく」
その痛みは甘く僕を浸食する。
下手な所有印より、彼が焼いた肌は心地良いと思うから。
「アラゴさん、改めて言わせて下さい」
「愛してる」
「え、」
「そうそうお前にばっか言わせてたまるかよ」
「……貴方は、全く…。
………僕も、アラゴさんの事、ずっと」
言いきる前に塞がれた唇が紡いだ言葉は彼に届いただろうか。
貴方は僕の事を重く感じたりしないだろうか。
愛しています。
だから、側にいて下さい。
「違ぇよ。お前が、俺の側にいればいいんだ。
……なぁ、セス」
一緒に暮らさないか。
その言葉は僕の心にとどめを刺して。
首を縦に振るばかりの僕は、きっとあの日彼を認めなかった僕じゃない。
▼セカンドキス