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□戴冠石の内と外
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戴冠石の内と外

※最終話ネタバレ


 その石の中は何処までも広く、四方が手に届くほどに狭い。

 浮遊しているのか拘束されているのかすら曖昧なほどに。


 囚われた世界。


 暗闇の中、目を潰すほどの光の中、セスはふ、と息を吐き出した。

 同時に脳裏に浮かんだ一人の男の姿に大きくかぶりを振った。


「見よ! 石を敷いた天空の

 青天井まで 悲しみを乗せて

 わたしのしらべは のぼってゆく

 そのしらべは 夜の耳をうち

 昼の目を泣かせる

 またそれは 吼えたける風を狂わせ

 大あらしと たわむれる


 ……皮肉ですね、刑事さん。此処は正に石の天空だ」


 戴冠石の中、何時とも知れぬ時の中。

 考える時間だけは無限にあって、それだけにあれやこれやと後悔も襲い来る。


 馬鹿な選択をしたものだと自分でも自覚はあるのだ。

 犠牲になることをあの人は一度足りとて望まなかったのに。


 だけどそう思う一方で確かに彼は満足していた。

 脳裏に浮かぶあの人物が必ず自分を迎えに来ると信じていたから。


「刑事さん、僕は貴方にいいたくて、ずっと言えなかったことがあるんです」


 貴方が余りに真っ直ぐで綺麗で、だから躊躇った。

 汚れて歪んだ僕にはその尊さが眩しくて。


「貴方が好きだなんて」


 ひどい矛盾だ。

 いずれは敵対するのだと明言したのに。

 気持ちは彼にばかり向いて、暫くはこの狭い檻から出られなくとも生きられる気さえする。





「刑事さん」







「……セス?」


 さわりと風が揺れるのと同時にアラゴは顔を上げた。

 吹いた風は穏やかで優しくて、やがて静かに凪いだ。


「悪魔くんがどうかしたか?」

「いや、なんか声が聞こえたような気がしただけ」

「じゃあ、呼んでるのかもね、セス君」

「へ、」

「先輩のが迎えに来るって信じてくれてるのかも知れないですね」


 一人で飛び出したアラゴを追いかけてきた仲間達。

 セスを助けるために尽力しようと誓った一蓮托生。


「……そうだったら、いいけどな」

「大丈夫ですよ、ダンナ。ダンナならきっと救えますって」


 まだセスを助ける方法は見つからなくて、それだけに焦燥感は募って。

 それでも、とアラゴは拳を握る。


「絶対、迎えに行くから」


 だから、また逢ったときには言わせろよ、セス。

 お前がブリューナクじゃなく、俺を見るようになったら言おうと思ってたこと。


 俺は、お前のことが嫌いじゃないから。











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