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□大切なナニカを守る幾らかの要因
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大切なナニカを守る幾らかの要因

※セス過去捏造。



 世界は何時だって不条理だ。

 僕が生きてきた中で薄汚れていない人間は見たことがなかったし、聖職者だって、疚しい部分を持っていた。

 世界は何時だって優しくなんか無くて、それ故に残酷。

 偽善と欺瞞。


 君を歓迎するよ、とあの日僕に手を伸ばした修道士。

 世の中に生きるための最小限を教え、慈しんでくれた。

 だけど神に仕える裏で、あの人は人身販売を。慈しみはあの人の気紛れな自己満足。


 世の中に溢れているのは醜悪な張りぼてばかりだ。


 ならば、僕が壊した所で何も問題ないんじゃないのか?



「刑事さんは馬鹿ですね」

「は、セス、お前喧嘩売ってんのか」

「いいえ、僕は感心しているんですよ。

 僕は今まで貴方のような人に出会った事がなかった。

 ……もっと早く出会っていたら、僕は何かが変わっていたのでしょうか」

「知るかそんなん。

 つーかなんだ、くそ生意気じゃないお前とか想像が付かない。うわっ、寒気」

「つくづく失礼な人だ。

 …ねぇ、刑事さん?」


 空を見上げる。

 ロンドンの空は何時もどんよりと曇って、とてもじゃないけど清々しい気分にはなれない。

 オルクの力は、ブリューナクの力は、この空に立ちこめる雲を払うことが出来るのだろうか。


「いずれは僕と貴方は敵になりますけど。

 僕は刑事さんのこと結構気に入ってますよ」

「………奇遇だな、俺もだ」


 大切なナニカを守る幾つかの力と願いと想い。

 僕と刑事さんのナニカはやっぱり重なることはなくて。

 僕が滅ぼしたい偽善と欺瞞は今日もこの世界に満ちている。

 成し遂げたい目的のためにはブリューナクが必要で、それを持っているのは刑事さん。

 どんなに気に入っていようと譲れないものは譲れない。


「じゃあ、パッチマンを倒すまで、これからも仲良くして下さいね、アラゴさん」

「…おう」


 コツンとぶつけ合った拳は今だけの期間限定の仲間の証し。

 それでもなんだか嬉しいような気がして。

 何となく感じた温かさに僕は笑った。








▼仮初めの友情

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