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華鬼SS 両片思い光華



ねぇ起きてよ、ママ。

華はそう言って泣きべそをかく。

ごめんね、ごめんなさい、ママ。私が勝手な子だったから、ママはずっと眠っちゃったの。

だけど、どんなに願おうと嘆こうと、一度失った時間は甦ることを知らなかった。



幼い頃の記憶だから、と神楽はたっぷりと前置きして、ようやく重い口を開いた。

光晴は華の悲しい過去に涙し、また、その場に自分があれなかったことを悔しがる。


「……俺は、阿呆や」


がん、と壁に叩きつけた筈の拳はいとも容易く突き抜けて。

神楽はそんな光晴に只ならぬ物を感じ、しかし声を掛ける前に間に割り込んだ第三者に振り向いた。


「京也、」

「華鬼から電話。何お前、携帯番号教えたの?」

「うん、華もようやく華鬼と連絡取ったし、いいかなぁって。

それに、神無が起きたタイミングとこっちから電話掛けるのが噛み合うのってあんまり無かったから」


そう言いながら、神楽は京也から携帯を受け取り、部屋を出た。

いつも一緒にいる三人だ、携帯も三人で一台である。


「あ、神楽」

「士都麻、話なら俺が相手になるって」

「京也がなぁ…。うん、まぁ頼むわ」

「うっざ」


落胆する光晴を横目に京也は溜息を吐いた。


「華は、あんたには知られたく無かったんだよ、士都麻光晴。

あいつは、あんたに弱い自分に気づいて欲しくないんだ。

そろそろ、その意味分かってるよな」

「……あぁ」


知っていて、知らない振りをしてきた。

それを肯定し、光晴は京也に呟く。


「潮時かねぇ」

「そうだな、潔く華に伝えてこい馬鹿」

「目上の者に使っていい言葉遣いやないで、それ」

「うざい」

「あーもう知らん、華鬼にせいぜい絞られろ」

「行ってらっしゃい、告白するまで帰ってくんな」

「人の話を聞かない奴やな!?」




「帰れない、帰れないよ、まだ。

だって私、夢を果たしてない。凝り鬼滅ぼしてない」

「それは、華の夢じゃないよね。

華の夢は、違うところにあるでしょ?間違えちゃ駄目だよ」

「神楽!!何言って!!」

「事実だよ、華。

好きなんだよね、光晴のこと」

「は、」


華の顔が見る見る赤くなる。


ぶんぶんと横に振る首は意味を成さず、静かに見守る神楽の瞳に気付いて漸く、不承不承といった様子で頷いた。

「ねぇ華。華は幸せになっていいんだよ?

 ううん、誰だって、それこそ今まで余り幸福では無かった光晴だって。

行っておいでよ、華。夢を叶えて、一度くらい神無に会いに行こう?駄目かな」


「ごめん、神楽。

私は夢を叶えてもきっと家には帰らないよ」

「そっか」



ひとしずく。

涙がこぼれ落ちた。


「そうだね、華」


ごめん、と神楽は言い返して、そっと光晴が来るのを待った。




▼涙の夢、少女の標
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