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□瑠璃
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瑠璃と雪月花


※原田と千鶴の子捏造。


「よう原田、千鶴共々元気にしてたか?」


 異国の町で見かけた見覚えのある背中に、俺は思わず声を掛けた。

 男は驚いたように振り返り、俺の姿を認めると、眼を僅かに見開かせた。


「不知火……か?」

「他の誰に見えるってんだ」


 間抜けな質問に仏頂面で返事をする。

 原田は、そりゃあそうだな、と笑い、海のほうを指差した。


「久しいことだし、千鶴にも会っていくんだろ? 積もる話もあることだろうし、うちに来いよ」

「んじゃありがたく行かせて貰うぜ。今夜の宿、まだ決めてなかったんだよな」


 たまたま、偶然。

 しかし示し合わせたように何事もなく事は運び、俺は過去に敵対した男と肩を並べて歩き出した。

 風間が見たらどんな顔をするのだろうか、と内心ほくそ笑む。

 鬼の喧嘩別れ。

 ありきたりな茶番劇で別れたままの鬼の頭領様は、京の古い鬼と結ばれたとか何とか風の噂で聞いた。



 維新が終わって、長州が国を動かすようになって、俺の役目は終わった。

 なら、あいつが、高杉が見たかったものを見てやろうと異国に旅に出た。

 その一番初めの町で再開したのが、まさかコイツだとは。


「驚くなよ、不知火?」

「何の話だよ?」

「まぁ、もうじきわかる……お、誠!」


 ………誠?

 聞いたことのない名前に首を傾げ、遠くに見える小さな影を見る。

 段々と近づいてきたそいつは、原田を見ると嬉しそうに笑い、抱きついていった。


「父さん、お帰りなさい!!」

「と……父さん?」

「あぁ。誠、紹介するな? こいつは不知火匡。俺の………」

「元敵同士だな」


 事実をそのまま述べると、餓鬼は困惑した笑みを浮かべ、原田に問いかけた。


「父さんの、敵? 母さんを虐めたの?」

「あー……そんな感じか? 今は違うから木刀は振り回すなよ?」

「おい原田。お前もしかして」

「俺と千鶴の子供だが? 新選組の旗印をとって、誠だ。

 千鶴に似て優しい子だよ。人の気持ちを汲み取れる」

「……自分の子供相手に惚気んなよ。当て付けか」


 何はともあれ、幸せそうなら何よりだ。


 鬼と人間の共存、か。


 誠に手を取られ走り出す原田を見、小さく笑った。

 相容れないと思ってた二つの種族間に、子供が出来た。

 それは、俺たちにとって大きな意味を為すと思う。

 いつかは、手を取り合って生きていくことが出来るかもしれないと錯覚する。勿論、そんなの奇跡に等しいけど、目の前の二人がそんな奇跡を起こしてる。


「千鶴、ただいま」

「母さんただいまーっ!」

「邪魔するぜ、千鶴」

「お帰りなさい左之助さん、誠。………不知火さん?」

「偶然な。お前の旦那に捕まったから今日は泊まってくわ」


 そう言うと、千鶴はにっこりと微笑んで家の中へと俺を進める。


「今日は語り明かせそうだな、不知火」

「なんでだよ、寝かせろよ」

「千鶴、今酒宴の準備してくれてると思うんだ。積もる話がそれこそ山のようにあるんだ。お前だってそうだろ?」

「わかったわかった」


 そうこうしている内に、小さいながらも工夫のされた料理が運ばれてきて、すっかり和やかな空気が流れた。

 
「なあ原田」

「ん?」

「お前とこうやって酒を酌み交わすのは、初めてだな」


 猪口に口をつけ、それからそう呟いた。


「だな。どうだ? うちの嫁さんの料理は美味いだろ」

「惚気んなっつってんだろ」


 台所で少し赤くなる千鶴を横目で見、原田に向かって盛大な溜息をついた。

 それから、日が沈みかけた海を見つめて口を開く。


「ここから見る四季は、眺めがいいだろうな」

「ああ、海の傍で、四季を感じて、幸せに暮らすのが夢だった。

 まさに、今の生活だよ」


 原田が俺に酒を注ぐ。

 悪くない、と思った。









▼四季を重ねて

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