no title

□Goodbay my dear
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Goodbay my dear



「君を愛してあげられなくて、ごめんね。・・・・・・ごめんね」

『悪ィな、お前の事、愛してやれなくてよ』
『・・・・・・っは、ウゼーんだよ』


 泣いて俯く彼女の姿が、ムカつく生みの親と重なって、苛立ちと、よく判らない感情が俺の中で渦巻いた。

 それがきっと彼女がアイツと同じことを言うからだと理解したうえで、それでも尚、グラリと揺れる不安定な足元を踏みしめるのが俺には少しばかり難しいからだったのだろう。


 愛してくれなんて、何時頼んだ? とつらつらと偽りの言葉を並べて突き放せれば事は簡単だったんだ。

 笑って、さよならも言わずにその場から立ち去ればよかったんだから。

 それが出来なかったのは、俺の中の甘さと、一種の怯えだったのかもしれない。必要とされないことの恐ろしさを、俺はこの身を持って知ったから。


「俺が、俺が本当にアリスになれたなら、お前と一緒に居られたのかな」

「・・・・・・アリス」

「俺が本物じゃないから、だから此処に俺は存在していては駄目で、そういうことなんだろ?
 なぁ、俺がアリスだったら、『   』は愛してくれたのかよ?!」


 名前が、掠れて聞こえなくて、己の声だったのに、彼女の名を呼ぶことが叶わなくて、膝が崩れた。
 
 彼女の名前に、ノイズが掛かったようで。

 彼女は同情とも見れるその視線で、しかし冷ややかに、俺を見つめるのだった。


「名前、呼んでくれないんだね」

「この国じゃ、自分の名前を勝手にほいほい名乗んないんだろ」

「嘘。君は私の名前を知ってるでしょう」

「・・・・・・・・・」


 あぁ、そうだ、知っていたんだ。

 なのにやっぱり名を呼ぼうとすればするほど、頭の中のノイズはますます大きくなって、俺が侵食されていくようで。


「・・・・・・なんてね、いいんだよ。此処は不思議の国だもの」

「・・・・・・なんだよ、ソレ」


 それが、最後。

 バイバイ、と手を振って後は振り向きもせずに、彼女は俺からいとも簡単に立ち去ったのだった。

 それでいいんだよ、と開き直った。

 閉ざされたこの世界では、俺と一緒にいたって幸せにはなれないから。

 
 やせ我慢、それから涙。

 見上げた空は憎たらしいほどに晴れていて、今の気持ちにはちっともそぐわない。


「いっつも雨にくせにな。こんなときばっか晴れやがって」


 ふっと溜息を付いて、そうして視界が歪むのは青い空の眩しさのせいにした。



さよなら、愛しい人

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