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□ただ会いたい一心で
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 ただ会いたい一心で。


「・・・・・・アリス・・・。」

  クローバーの国に来てからのアリスの不調は最高潮に達していた。
  ドアの森へフラフラと立ち入っては、ボリスやピアス、エースに保護されてしまうほどに。

  今、ドアの前でぼぉっとしているアリスを切なげに見つめているのは、ボリスだった。

「・・・ぁ・・・ボ・・・リス?いつから此処に・・・。」
「だいぶ前かな。迷ってたみたいだから声掛けづらくてさ。」
「あ・・・嘘、ごめん。全っ然気付かなかった・・・。」

  ボリスと話していても何処か上の空で、視線は決して彼に向かうことは無い。

「・・・アリスは帰りたいの?」
「・・・・・・え・・・?」
「無理してここにいなくていいんだよ?俺らに遠慮なんかしなくていいんだから。
 俺らは、アリスが幸せになればいいんだしね。・・・元いた世界に帰りたいの?
 それとも・・・。」

  グッとこぶしを握り締めて、ボリスは言葉を続ける。

「・・・それとも、時計屋さんのトコ?」
「・・・っつ!!?・・・なんで・・・。」

  思わず彼のほうに振り向いたアリスの頭に、ふわりと手が乗せられる。
  そのまま、さらっと髪を髪をなでられ、彼女はボリスに視線を向ける。
  彼は小さく苦笑していた。

「・・・だってアンタは、時計屋さんの事、好きなんでしょ?」

  もう一度髪をなでると、ボリスはアリスをドアに向かせ直し、背中を押した。

「ボリス・・・?」
「行きなよアリス。ここの皆には俺から言っておくからさ。
・・・幸せに・・・ね?」

   ほら、ともう一度後押しされると、アリスははじけるかのようにドアに手を伸ばしす。

「ごめんなさい・・・。ありがとう、ボリス!
・・・それと、皆に伝えて、「ありがとう、ごめんね。」って・・・。」
「OK、任せといてよ。あ、じゃあ俺からも伝言。おっさんと時計屋さんにさ、
 「きっともう少しでエイプリル・シーズンだよ。」って言っといて。
・・・・・・じゃあね、アリス。」
「・・・また今度、ボリス。」

  その言葉を最後に、アリスはドアの向こう側へと消えていった。

「あーぁ、俺だってアリスの事好きなのにな。
 また格好付けっちゃったよ。ま、またすぐに会えるさ。・・・ね?」

  ドアを見つめながら、ボリスは小さく呟いた。

/////////

  階段、階段、階段。
  入り乱れる無数の階段の中を、アリスは迷うことなく進む。
  道標は、鼻を刺す懐かしい機械油の匂い。

「っはぁ・・・ユリ・・・ウスっ・・・!」

  とうとう、ハート型のドアに辿り着く。
  逸る胸を押さえつつ、アリスはそっと、扉を開けた。

  見えたのは、黙々と作業する彼の、広い背中。

「ユリウス。」

  ビクリ、と肩が揺れる。
  彼の顔がゆっくりと、アリスに振り向いた。

「お前・・・。」

  大きく目を見開く彼に、花のような笑顔を向けてアリスは口を開く。

「ただいま・・・。ただいま、ユリウス・・・っ!!」
「・・・あぁ。
・・・・・・・・・お帰り、アリス。」

  そう言って、ユリウスはしっかりとアリスを抱きとめた。

「「・・・会いたかった・・・。」」



     君に会えるのなら、世界さえも惜しくは無い

     (ねぇ、ユリウス?私に会えなくて寂しかった?)
     (・・・まぁな。)
     (そっか。ね、エイプリル・シーズンって何?)
     (また直ぐに会えるさ、あいつ等に・・・な。)

                                End.

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