稲妻1

□何者にも変えられない唯一
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「ごめんね、僕はこの島から出られないんだ」

「……なんで、」

「天馬、僕は妹を守りたかった。それだけだったんだ。

 僕は君のように強くなれなかった。自分の弱さと向き合えなかったんだよ。

 だから、取り返しがつかなくなってから強さを求めた。馬鹿だね、そんなことしたって妹は戻ってこないのに」


 シュウは俺に特訓してくれた崖を撫でた。


「でも、君のおかげで救われた」

「……シュウ?」

「究極の強さは要らなかったんだね。

 僕は心の強さを手に入れた、君や君の仲間、白竜達のおかげでね。

 これでやっと僕は、帰れる」

「……ねぇシュウ、君は」

「ミサンガ、大事にしてくれたら嬉しい。

 ありがとう、天馬」


 そっと俺の背中を押す。シュウはそれきり、何も言わなかった。

 きっと言葉はもう要らない。

 でも、これだけは俺も言いたくて振り返った。


 もう、シュウの姿は其処にはなかった。


「こっちこそありがとう、シュウ!!」


 さわりと風が揺れた。なんだか心が軽くなって。

 走り出したすぐ先にあの、サッカーの神様の像を見た。









「剣城、」

「遅い、危うく置いていくところだった」

「えへへ……ごめん、ちょっと挨拶してたんだ」

「ああ」


 フェリーに乗り込んだ先輩達は、俺達を急かして大きく手を振った。

 松風が手を振り返して、さぁ行こうか、と俺の手をとる。

 
 暢気な奴。

 誰が寒い中外で待ってやってたと思ってんだよ。


 そんな言葉は、驚くほど暖かな松風の手のひらに溶けた。


「ねぇ剣城」

「なんだよ」

「白竜に挨拶しなくて良かったの」

「要らない。もう、全部伝わってる」

「……ありがとう」

「バカ、なんもしてねぇっつの」


 一瞬だけ憂い顔で島を見た松風は、それっきりもう何も言わなかった。

 俺は手を掴みなおして背を押して、松風をフェリーの中に放り込んだ。


「帰ろう」

「うん」

「また、いつか会えるに決まってる」

「そうだね」


 先輩や他の一年連中が松風を取り囲んだ。みんな、怒っているようで笑顔で、見ているこっちが照れくさくなる。

 
 白竜。

 これが、今の俺の歩く道だよ。


 先行くフェリーを見て呟いた。

 再会したその時は、きっとまた俺達は全力でぶつかれるはずだ。


「……先輩、そろそろ出発しないと。置いてきた倉間先輩とか、ご立腹じゃないんですか」

「「………あ」」













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