no title 4
□はろーはろーりありー。
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昔本で読んだことがある。
輪廻転生。
つまり、生まれ変わりとかいうやつのこと。
前世の記憶を引き連れて生まれてきた僕は、生まれたときから利口だった。
言葉を話すのは普通の子供よりも何ヶ月も早かったし、体が成長すればろくな練習もなく歩くことが出来た。
NO.6のない世界はひどく穏やかで見た目はなんの苦しみもない静かな世界だった。
たとえ、僕のすむこの国以外が戦争をしてようが飢餓に飢えようが、お構いなしの。
そこで二度目に出逢ったネズミは僕のことをちっともおぼえちゃ居ない。
たまにじとりとねめつけるその視線だけが、酷く昔のネズミに似ていた。
――お前が急いでいないのなら、もう少し様子を見てやってくれないか
そう言ったのは、力河さんだった。
はじめて会ったとき、高校で演劇部の顧問をしているのだ、と頭を掻いた力河さんはそれから部活内でのネズミの様子を事細かに教えてくれる。
イヴ、と呼んでも抵抗なく返事してくれること。
相変わらず死ぬほど演技がうまいこと。
たまにどこも見ていない目をしていること。
そんなときはたいてい、ぼくが絡んでいること。
だから僕は無理に思い出させないことにしたのだ。
ネズミと一から出逢いなおして、この世界で今度こそ離れずにいられるように。
「君に出逢えて良かったよ」
昔も今もそう思う。
変わりなく。ずっと。
「さて、できた」
「何を描いたの?」
美術の時間に描き終わらなかった一枚の油絵を前に、僕はふぅっと息をついた。
美術部の沙布は、そろりと覗き込むなり、趣味が悪いわ、と一言呟いた。
「でも、わからなくもないかも」
僕が書いたのは六角形にデザインされた高い高い壁と、それを見上げる二人の人物画だった。
あの世界を忘れないために。
忘れてもよさそうで、だけど忘れたくないあの風景を織り込んだ。
「ありがとう」
そういうと、沙布は仕方ないわね、とへろりと笑った。