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前夜の邂逅
到着時刻夜十時、の東京駅。
改札口を出ると、仏頂面の火神大我が出迎えてくれた。
「……お疲れさん」
酷く気が滅入っているような表情を浮かべると、彼はついてこい、と一言。そのまま歩き出した。隣に並ぶ。
「ねえ」
「んだよ」
「もう擦過傷、治ったんだ」
「あー、おかげさんで」
WC前に僕が向けた鋏によって出来た傷は、もう跡形もなかった。まあ、大輝とやり合ってから数日経っている、そんなものだろうが。
しげしげと眺めていると、彼は苦々しげに舌打ちをした。
「まさかお前がこういったのに足つっこんでくるとは思わなかった」
「テツヤを見出したのは僕だからね。あいつの動向はそれなりにチェックしてる」
「……そーかよ」
駅を抜けるとネオンが眩しい。こんなにギラギラしていたっけ、と少し疑問を覚える。京都とは違う明るさに違和感。
「僕はね、誰よりも普通なのさ」
「……はあ?」
彼は何言ってんだ、とばかりに露骨に顔をしかめた。
「チートって言う前に自分の態度を振り返れ。あいつには叶わないなんて投げる前に最善の努力をしたか省みろ。
……僕が言いたいのは後にも先にもこれだけだ。まあ、多少恵まれた環境にいることは否定しないがな」
「ひと一人破滅に追いやれる時点でちょっと、の域は完全に越えてるからな」
「ははっ、そりゃあ僕の力じゃない。親の七光りってヤツ」
本来こんな風に話すような相手じゃないよなぁ、と思う。
因縁だけが渦巻いて然るべきだと。
だって。
僕はテツヤの退部を止めはしなかったのだから。
「僕は、ね」
「おお」
「こう見えて仲間思いなんだよ」
自分で言っててなんて薄っぺらいのだろうと、吐き気がした。
仲間思い?
僕が?
ただただ効率的な効果的なチームを作り上げてただけなのに?
「知ってる」
「え」
「俺が思うにお前らキセキの世代ってただの馬鹿しかいないんだよ。性格ひん曲がった面倒くさい奴らしか、な。
お前も結局その一人ってだけだろ」
彼はそう言ってマンションの前で足を止めた。
「正直あんたは苦手だけど、あんたの情報力とコネには期待してんだ。よろしく頼むな、赤司」
「……馬鹿はどっちだ」
テツヤが彼を新たな光として選んだ理由を少しだけ感じ取った気がした。
マンションの中に入っていく背中を見、一拍おいて後に続く。
絶対助けてやるから。
柄にもなくそう思って、僕は僅かに笑った。