PofT

□lover
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風が冷たい。最近、少し寒くなってきた。冬にもなれば、当たり前のことだけれど。
少しばかり走ってきたけれど、止まってしまえば寒さが戻ってくる。
黒いジャージにタイトなグレーのTシャツ、インナーを着てくれば良かったと、朝の天気予報に悪態をつく。くそ、お天気お姉さんめ。
女の子らしくいられる唯一の長めの髪は、手入れもされずに雑にまとめられ、正直邪魔を覚えていた。
思考はそこまでにして、寒さで固まった筋肉を伸ばす為にストレッチをしようと足を伸ばす。

「あ、」
「お、陸上部」

滅多に知り合いの来ないこの公園に、顔見知りが、
「…宍戸くん」
「自主練?」
「うん」
そっか、と、ストレッチをしている私の近くのベンチに腰掛ける。
何をするでもなく、ただ、私はストレッチ、宍戸くんは座っている。
ラケットを持っていたことから、宍戸くんも練習に来ていたのだと納得する。
私がストレッチする間、終始無言だった。
なんだか不思議な空気に、妙に緊張した。
「陸上部は引退したんじゃねぇの?」
「冬季大会の、選抜メンバーで、」
「え、三年出れんの?」
「年内は」
「あーそうかー」
頑張ってんだな、なんて、淡い、優しい笑顔で言われる。
恥ずかしくて、思わずそっぽを向いてしまった。あまりにぐりん、と顔を反らしてしまったから、気に障ったかもしれない。
だけど今のは、宍戸くんが悪い、そう、そうだ。
「これ、やるよ」
振り返ると、何かを投げて寄越される。
何だと見てみれば、既に開いていたスポーツ飲料。
次に宍戸くんを見ると、にっこりと素敵な笑顔。
「さっきまで飲んでたけど、お前のが必要だろ、それ」
「そう、だけど、」
分かっているのかな、これ、間接ちゅーだけど。
そうは言っても直接そんなこと言えもしないから曖昧に聞いてみると、また見事に頷かれた。
「俺は構わないから」
「…宍戸くんて、純粋な女の子を何人泣かせてきたんだろう」
それが殺し文句とは思わないのだろうか。
きっと宍戸くんには彼女の一人や二人、普通にいるんだろうな、あの男子テニス部だし。
そんなこと言ったら、「俺はそんなに軽くない」と怒られた。…すいません。

「別に、誰にでもこんなことしてるわけじゃねぇよ」
「…そうかな」
「あ、忍足と一緒にすんなよ?同類とかぜってぇ嫌だから」
「私忍足くんとクラス一緒だから、それ後で学校で伝えるよ」
「うわ、やめろって」
はは、と笑う。
ずいぶんと無理した笑顔だ。
仕方ない。こんなにもかっこいいのだもの。
イケメン罪で訴えることは出来ないかな、なんてばからしいことを考えてるあたり、まだ私には余裕がある。
「こういうのは、お前にだけだ、お前にだけ」
「あの、それはそれで、勘違い、しちゃうのだけど」
貰ったペットボトルをぎゅうと握ってうつ向く。その上からぽん、と頭を撫でられた。
更にうつ向いてしまう。同い年なのに、恥ずかしい。

「勘違い、してくれんのか?」


結局、貰った飲み物は飲めそうに無い。
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