創作置場(短編、詩)

□regret
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その行動が今までで一番軽率だった事は解っている。

「お母さんだって、私よりあの人の事が好きだよ」

「あの人?」

「父親じゃない男」

「家は?」

「しょっちゅう家に来て泊まり込んでるのあの男」

「…」

「お父さんも、女連れ込んで」

「…」

「二人の部屋に挟まれてるの、私の部屋」

「…」

「私には誰もいない」

そんな寂しい事を、君は言うんだね。

「俺がいる。離さない、絶対に」

「でも家族じゃない」

「結婚しよう、君だってもう学生じゃない」

「ありがとう。でも結婚って何?」

「は?」

「あんな紙で、二人の中をつなぎ止めるの?」

「婚姻届?」

「そうだよ」

寂しい事を言うな。
切ない事を言うな。
俺の立ち位置を崩すようなことを言わないでくれ。
それに今まで一度も聞いた事がなかった。
どうしてそこまで追い詰める。
どうして相談の一言もしてくれなかった。
どうして、こちら側に逃げてきてくれなかった。

俺は抱きしめる事も出来ないまま立ち往生して、地獄絵図を見た。

「死ぬしかない」

「やめろッ」

「やだッ、絶対後悔するよ。私の事止めないでよ」

通行人が集まってきて、目撃者はいすぎるほどだった。
君は手すりを乗り越えて、そのまま宙を舞った。
夜明けの茜色の中を。
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