創作置場(長編)

□サブマリン――SubMarine――
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後、10人。
時は刻々と過ぎていく。
いつ攻撃されるか解らない。
後、5人。
どうか持ち続けてくれ。

最後に艦長の声に戻った。
艦長の最後の言葉だ。

《栄、今までありがとうな。どうか、俺の職場は憎まないでほしい。仲間のこともだ。今まで本当にありがとう》

隣でまたすすり泣く音が聞こえた。
艦長がまだ生きている気がするのは、生きていてほしいと願っているのはクルーの全員だ。
艦長がまた微笑んでいってくれそうな気がする、馬鹿野郎、と。
あれほど暖かくて、温くて、人のことを思っている声は、艦長、貴方じゃないと出せないと思います。

《Key 13 RARZY PUVAN. Repeat now, key 13 RARZY PU…》

艦長の声が途切れた後は、殺人的なノイズが流れるだけだった。
それは、「せきりゅう」の撃沈を意味していた。
アルファベットの羅列は誰にでも簡単に解読できる暗号だった。
艦長が無駄話か、人をほめる時の暗号。
正確にはROT13と言い単換字式暗号、シーザー暗号の一つだ。
Aは Nに、 B は O に置き換えられ、以下同様である。
英語の "Rotate by 13 places" の略でネットワーク上のやりとりで冗談の落ち、パズルの解法、ネタばれ情報、不快表現等を隠すのに用いられるアルゴリズムである。
実際は暗号という程高度なものではないく、主用言語が英語の人は用いるかもしれないが少なくとも日本で使われる機械はあまりない。
この場合はRARZY=enemy、PUVAN=CHINAで、敵は中国なりとなる。
ということは中国が魚雷を打ってきたということになるのか。
一ノ関は少し頭を抱えた。
そもそも、このように隠されるという事は機密ものではないのか。

「この音源、データ化してもらえますか」

「どこへ持って行かれるのですか?」

「海幕と、取りあえず防衛省の方へ。お話しできませんが重要な内容が含まれています」

「防衛省には音源があります。海幕にはこれから転送する予定です」

「今すぐ上陸したいのですが」
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