創作置場(長編)

□サブマリン――SubMarine――
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彼等は海を深く潜る。
何も知らない、誰も知らない闇の世界を。
そして、外殻に囲まれたまま外は見えない。
堅い鯨の肌のようなその外殻は簡単には破れない。

「小野坂艦長より、一ノ関三尉に伝言があります」

新型潜水艦そうりゅう型「せきりゅう」は撃沈した。
一ノ関はたまたま、陸上での怪我で乗艦していなかった。
それを人は幸いというのか。
一ノ関陸(いちのせきりく)は出動した潜水艦救難艦ちはや型「しおどめ」に乗艦していた。

バイクで飛ばされて、足の骨を折り全治1ヶ月。
あと2週間事故に遭うのが遅かったら、自分も今頃海の底だろう。
飛び出してきた子供を避け、さらに母親も避けてバランスを崩し転倒。
車を2台巻き込んだ。
親子は赤信号で信号無視だったから、一ノ関は悪くは無かった。
地方新聞に他に大きな記事がなかったことも手伝って地域面のトップ記事だ、恥ずかしい。
「海上自衛隊三等海尉、親子庇いバイク転倒。全治1ヶ月。潜水艦出航まで間に合わず。親子は幕僚本部に謝罪」そんな記事だった。
別に海幕に謝罪をいれられる程たいしたことでもなかったが。
これじゃあまるで俺が悪者だと悪態をつきながらベッドに横になっていたのが昨日のように近かったような気もする。

それが、今日のニュースは何だ。
「海上自衛隊潜水艦“せきりゅう”撃沈。原因不明」そんな記事を朝目にして病院を飛び出してきた。
看護師に止められながら。
制服に着替え、松葉杖をつき。
短い間だったが艦が就任してから一緒だった仲間を想い。
一番最初に浮かんだ顔は艦長の顔だった。
それが、どうして。
今まで下品に笑い合っていた取り留めもない話を今、胸の中で繰り返す。
お前の彼女は胸だけだ、とか艦長の奥さんは艦長に似合わず美人でスタイルがいいとか、下世話な話を思い出す。
それでさえ大切な時間だったのだ。

横で艦長夫人が倒れ込む音が聞こえる。
自分の涙腺もゆるみ始める。
松葉杖を掴むことも忘れるような深い悲しみを、自分はいつ乗り越えられるだろうか。
仲間を全員失った悲しみを、いつ乗り越えようとするだろうか。
艦長夫人の大きな目は、いつも優しく笑いかけるあの目は、もう涙色に染まっていた。

「伝言ですか」

泣くまい、と必死で声を振り絞る。
自分だって男だ。
下らないところで意地を張る。
今の自分にはそれぐらいしかできない。

「録音を頼まれたものですから」

「音声を?」

当たり前のことを聞き返す自分はやはり動揺している。
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