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□暖かい場所
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「次は福島駅です」
アナウンスが聞こえた
あれからハンカチの彼は
寝息を立てて寝ていた。
少しいびきはうるさかったけど私には丁度いい気がした。
静かすぎると涙が出てきそうになるから…
もうそろそろ福島に着く。
ハンカチの彼を起こさなければ
………でも何て呼べばいいかな…
「は…ハンカチ君?」
「ハンカチ君起きてー!」
「っ…?」
「ハンカチ君って…俺の事?」
「あっ…ごめんなさい」
「いや全然いいんだけどさ!」
「もう福島着きますよ?」
「あっわざわざありがとう」
「…いつかまた会えたらいいですね!」
「そうですね…」
「それではまた」
「あのっ…」
「ハンカチいつか返しますね!」
「了解!」
そうして彼とは乗車口で別れた。
最後までいい人だったなあ
私にはこういう人が似合う気がする
克也とは正反対の彼。
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日も暮れてすっかり夜になっていた。
あれから色々観光して足もくたくただ。
目の前には川崎旅館の文字。
此処が私の実家。
「やっと帰って来れた。」
ガララッ
「ようこそいらっしゃいませ。」
そこにいたのは長年働いていた従業員の方だった。
「多江おばさん私です。」
「あっ!舞ちゃん」
「あらどうしたの?」
「ちょっと息抜きに…」
「じゃあ女将さん呼んでくるわね」
「ありがとうございます」
あれから全然変わってない
私、帰ってきたんだ
心にのしかかる重りが一つ取れたような気がした。
「舞!あんた心配したよ…」
「ごめんね…お母さん」
「謝らないでよ…さっ家で待っててご飯持ってくるから。」
「うん。」
私の母と父は自宅の隣に莫大な借金をしてこの旅館を建てた。
母は女将兼経営者
父は料理長として
最初は従業員も2〜3人だったし
お客様もあまり来なかった。
けどだんだんお客様が増えてきて、従業員も2、30人ほどになった。
今は自宅が住み込みの従業員の寝泊まり場。
って言っても昨年まで多江おばさんしかいなかった
ガチャッ
「ただいま〜」
自宅は昔と何ら変わりは無かった。
少し涙が出そうになった。
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