□暖かい場所
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『別れよう』





今まで5年も付き合っていた彼に言われた言葉。





結婚もあと一ヶ月後に控えていたし

アパートも彼の家に住んでいたから売り払っちゃったし



もう心はボロボロだ。




会社にももう退社しますって言っちゃって今更結婚駄目になりましたなんて言ったら私どうなるのよ…



もう疲れた…



家も勿論ないし、ネカフェでうなだれていた。



そうすると携帯に着信。






「あっもしもしお母さん?」





「あんた…大丈夫?」

「駄目に決まってるでしょ…」





「…………もう家に帰ってくれば?」


「もう帰ろうかなあ…」



そう呟きボストンバッグを整理し始めた。













--------------暖かい場所











私は翌日新幹線の乗車口にいた。


「もうゆっくり休もう…」


そう呟いて窓側の席に座る。



実家に戻るなんて久しぶりだなあ…

いつ以来だろう…

克也を両親に紹介しようとした時だっけ…


あの時からもう浮気してたのかな…


克也…

私何がいけなかったの?











「ハンカチ使います?」


目の前にハンカチを差し出しされた

「へ?」

「泣いてるから…」

「すみません」

私、知らない間に涙流してた。


それほど克也が好きだったんだ。



「飴なめます?」

「え?」


ハンカチの彼が私に飴を差し出した

私と同い年くらいなのかな…



「何かあったんですか?」

「……いや」




「初対面の俺に話すのも変ですよね…」

ハンカチの彼は笑顔で話す。





「どこまで行くんですか?」




「福島県です…」

「俺も福島ですっ!」

「いや〜東京出身なんですけどね」

「料理の修業で…」




「料理ですか…」


「はいっ!」

「旅館の厨房で住み込みで働いてるんです!」



旅館…


懐かしいなあ…

私の家も旅館だからな…




「凄いですね…」

「いやあ…それ程でも」

彼は照れ臭そうに笑う。



「あなたは何の仕事してるんですか??」

「私は…仕事辞めてきたんです。」





「仕事も恋人もいなくなっちゃいました……。」


「……そうなんですか」



「………私ったら何話してるんだか…」



「仕事も恋人もあなたなら見つかりますよ!」



「俺応援してます!」


私の手をとる。

「ありがとう…」



彼の笑顔で少し元気を貰えた気がした。








それは丁度、福島県への道のりの半分を過ぎた頃だった。
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