献上

□Child days.
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「服のサイズは大丈夫かしら?」
「あぁ ちょうどいい」
「身体はなんともないか?」
「今んとこ問題ないみたいだ」
結局、なかなか部屋から出て来ない俺を(いつもの早起きが仇となった)不信に思ったルークの強行突破(危機迫った顔で扉を破壊すれば文句なしにそうだ)により事がバレ、皆に知られる事に。
いや、隠していてどうにかなる問題ではないので逆によかったような気もする。
サイズの合わない、ぶかぶかの服(肩からずり落ちそうだった)のまま部屋を出るなど、そんな勇気はなかった(…むしろ、身の危険を感じ取っていたのかもしれない)
急いで子供服を買ってきてもらい(ケセドニアの朝市はすごい)それを着ているが、なんだか申し訳ない。
いきなりの事にすまないな、とルークに苦笑するとほっとしたように何言ってんだ、と笑い返された。

ふいに、誰かの視線が突き刺さる。
そちらを向けば、難しい顔で何やら考え込むアニスの姿。
いつも天真爛漫で賑やかな彼女が押し黙る事などそうそうない。それにティアも気付いたのか声をかけた。
「どうしたのアニス?」
「ん?ガイってば小さい時から素質あったんだなぁって思って」
素質?剣士としてのだろうか。いまいち意味が読み取れなくて文字通り首を傾げると、うーん…なんて言うのかなぁ。ゆっくりアニスがにじり寄ってきた。
格段に近くなった身長差により、彼女の顔がよく見え、男としては利点だと思考の片隅で思う。けれど、女性恐怖症の俺としては由々しき問題で。近付いた分、後退る。
「むー…」
「おいアニスっ、あんまり近づくなよ」
「ルーク…大丈夫だって」
以前と比べ、大仰に飛び上がらなくなったとは言えガタガタ震える様では説得力のかけらもないだろう。
はわわ、ごめんっ。はっとした様子で距離が離れる(とりあえず離れてくれてほっとしたのは内緒にしておこう)
何をそんなに夢中になって見ていたのか。そりゃ確かに珍しいかもしれないが。
「…大人になったらかっこよくなるんだなぁって想像できる子供時代、みたいな」
その発言の意味がわからなかった。
「あ、それわかるかも。かっこいいとか思ってた気がする」
まぁ一番はヴァン師匠だけど。と零したルーク(そういえばあの頃から酔狂してたよなぁ)
「確かに、この頃から人気でしたわね」
何か思い出したように口元に浮かんだ笑みを手で隠しながら、ゆっくりとナタリア。
屋敷中のメイドに追い掛けられて…。ナタリアっ もうそれ以上言わないでくれ。え、何だよ教えろよっ。うわぁ気になる〜 アニスちゃんにも〜。
一気に騒がしくなる室内。お前ら、そんなに人の不幸が聞きたいのかっ(それは単に恥ずかしいだけでなく、屈辱的な経験なわけで。口にする気は毛頭ない)
幼なじみという存在を初めて恨んだ。

「いやー、皆さん朝から元気ですねぇ」
騒がしい室内に涼しげな声が通る。
ピタリと静かになった一同の前にようやっと起床したジェイドの姿が部屋の入口にあった。
普段通りの食えない笑みを浮かべ、ゆったりとした足取りで騒動の中心へと近付き一言。おはようございます、ガイ。と。
「随分と、かわいらしい姿をしていますね」
顎を持ち上げられ、自然と上を向く形となり、楽しそうに細められた瞳と目が合った。
眼鏡の奥が一瞬、怪しげな光を放つ。
それに違和感を感じ、その真意を捕えようとその奥を覗き込む。すると弧を描いた唇が声を発さず、言葉を象った。
(か…ら…だ…に…い…た…み…は)



『身体に痛みはありませんか?』



それを読み解くとニヤリとジェイドは笑った。
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