献上

□セピア色の記憶
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むかしむかしあるところにホドという島がありました。
青い空と蒼い海。島の緑と街の白が調和した美しい島で、始祖ユリアが愛した島でした。また、ユリアが没した島でもありました。
神々に愛された島として争いの少ない平和な島国でした。






セピア色の記憶





そこを納める領主は獅子のような金色の髪を靡かせ、島の民を守っていました。
名はガルディオス伯。マルクト創建の頃より仕えた由緒正しい、貴族様です。
私利私欲に走らぬ、貴族の鏡のようなお方でした。
そんなガルディオス伯には遥か遠く、敵国から迎えた妻とその間に授かった子供がおりました。
妻は清楚で慎ましやかな美しい女性。
ご息女は正しく獅子の御子、可憐で猛々しいお方でした。


「にいさん たけだけしいってなぁに?」
「うーん そうだな…強くてかっこいいって事だよ」
「そっか」

しかし爵位を受け、島の領主であり続けるためにはどうしてもご子息が必要でした。
彼はご息女を愛情を持ち、可愛がりながらも願い続けました。
そうして月日が流れ、ルナが全てをさらけ出したその夜、待望の男の子が産まれました。
獅子も妻も姉となったご息女も喜び、島中に響き渡った吉報は民も喜びました。


「…にいさん」
「何かな?」
「ティアも…」
「ん?」
「私ものぞまれてうまれてきたのかな…?」
「もちろんだよ 何を言ってるんだ」

産まれた男子は大きな病気もなく健やかに育っていき、一人で歩けるほど大きくなりました。
けれど、活発で猛々しい姉上様とは対象的に大人しく、泣き虫な子供でした。
ささいな事で泣いてしまう方でした。
転んで擦りむいて。姉に怒られて。犬に追い掛けられて。すぐ泣いてしまいます。
されど、家族は厳しくも優しくそんな彼を愛していました。

子供は泣き虫でしたが、とても優しい方でした。自分の事ではないのに泣いてしまうほど心優しい方でした。
それゆえに相手を傷つける剣の稽古が嫌いでした。
いつも泣いてばかりいる彼はその時ばかり、風の如く抜け出しよく従者を困らせました。






「どうして?」
「ティアはどうしてだと思う?」
膝の上に座る妹を見遣り尋ねると、難しい顔をして彼女なりに答えを模索しているようだった。
痛いからかな?さぁどうかな。にいさんこたえしってるんでしょ、おしえて。
いじわる、と小さな拳が胸を叩く(さほど痛くはないが)あぁこのままでは本気でむくれてしまう。
(あの方も…こんな風に駄々をこねたっけ)

答えはわからないけどね、多分彼は誰も傷付けずに守りたかったんじゃないかな?
まもる…?
そう。自分の家族とか友達、果ては民を守る事が彼の役割になるから。
でも、敵対する誰かにも自身と同じように大切な人がいる事をわかっていたから、剣が嫌いだったのかもしれない。


(この世界でそんな綺麗事を貫き通すなんて出来やしない。私はそう思っていた。けれど、あの方が幸福でいられるなら。あの方の側にいられるなら。その理想を叶えるための盾であり続けたいと願った)
なのに。この世は自身が思う以上に不条理で偏屈だった。
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