綴織

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〜悲劇の前夜〜

『次の長になる少女…鈴名と云ったかな?』

鳳凰族の里を纏める者・怜雪(リャンシエ)が前触れもなく龍族の里にきて、開口一番こう云った。
『えぇ。長である私ですら手に負えないほどの力の持ち主であります…』
神妙な面持ちで、人払いをした龍族長・華蓮(ホワレン)がそれに答える。
『厄介な力だな。無理は承知だ…鈴名を私ら鳳凰に預けてはくれぬか?』
『何っ!!…そ、それは!なりませぬ!』
怜雪の発言に、華蓮が目をむく。そして、唇をぎゅっと噛み締めると、必死に何かを押さえ込んでいる様子をうかがわせる。
『彼女…鈴名は幼い。力を抑える事も、精神面でも…遅かれ早かれ己を保てなくなるだろう。』
『しかし!お忘れか?彼の者のさだめは、そなた方鳳凰の元にあると!』
華蓮は勢い良く立ち上がると、何とも言えない悲痛な表情を浮かべる。

鈴名のさだめ。
彼女と繋がる糸は鳳凰にあると…決して結ばれてはいけない糸を、自ら手繰り寄せてしまう…それが宿命。
断ち切らねばならないのに、生まれる前から定められたつながり。
本人は気付かなくても…魂同士が共鳴する…呼びあってしまう。一対の翼となるために。
一刻でもいい、遅らせなくてはならない。それなのに、どうしてこの要求を呑むことができよう。

『…わかっておる…。だが、他の神獣では鈴名の力を抑えることは出来まい。礎石の輝きを翼とする、神の力を宿す者だ…。』
『…数百年に一度の、…聖龍…かっ。くっ…!!』
『そうだ。我々鳳凰に許されている力でもってしても、まだ足りぬやもしれん。
聖と魔、どちらかが欠けていればまだしも…両者共に持ち合わせている。鈴名自身の器ももたなくなるかもしれない…普通なら、負の要因で均衡が保たれるのに…全く以て異端児だ…。』
『…それであっても…。なりませぬ。私達で…鈴名のさだめをかえてみせます。必ず。』
華蓮は食って掛かるかのように怜雪を見つめる。
その瞳には強い意志が見受けられる。しかし…彼にはわかっていた。これが無謀な賭けであるということに。
『…。…そうか。どうなっても…もうこれ以上私達には何も出来ぬぞ。』
哀しげに華蓮を見つめ、怜雪は遠く思いを馳せるように呟く。

その翌日、悲劇はおこる。
鈴名が力を爆発させ、暴走を食い止めることも出来ずに、礎石と共鳴し、木々をなぎはらい、人を殺め、山をも吹き飛ばして。
そして、一帯を広大な死の平原に塗り替えてしまったのは…。

―――さだめられた2つの魂は出会ってしまう。皮肉にも、逃れんとしていた掟によって。―――
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