図書室
□▽雨の日に
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−−−放課後。外は雨が降っていた。
今日は朝からずっと雨降り。
「よく降るなぁ…」
教室の机に片肘をついて、うっとうしい雨を見る。
雨は嫌いだ。
おふくろのことを思い出してしまうから。
「…一護、帰るか?」
長身を窮屈そうに屈めて、チャドが声をかけてきた。
「そうだな」
授業も終わったのに、いつまでも教室に長居することもないよな。
校舎を出る。
チャドは何事もないようにそのまま出て行こうとしている。
「おい、チャド!待てって」
「…ム」
立ち止まってこっちを見るが、間に合わなかったようだ。
チャドの体は雨に濡れる。
「傘、ないのか?」
「いつものことだ」
雨の日はいつも濡れてるってことか?
「冷たいだろ」
「いや」
チャドは雨に濡れてもホントに平気そうだ。
「雨は嫌いじゃないから」
そう言って、雨の落ちてくる空を見上げる。
「俺は嫌いだ」
「…そうか」
やっぱり、理由は聞かないんだな。
「チャドはどうして嫌いじゃないんだ?」
雨降りが好きな奴なんて、俺の周りの奴では考えられない。
「…雨は嫌なことを洗い流してくれる」
落ちてくる雨粒に目を細めながら、チャドは言った。
雨は、俺のイヤなことを思い出させる。
チャドはイヤなことを流してくれるって言う。
人それぞれ感じることが違うんだな。
「そっか」
俺はあえて何も言わないことにした。
チャドもそれ以上何も聞かないし、何も言わない。
「でもよ、やっぱ濡れると風邪ひくぜ?」
背の高いチャドの頭の上に傘をかざす。
「…ありがとう」
礼だけは忘れず、チャドは僅かに笑った。
「…俺が持とう」
「助かる」
さすがにずっと腕を上げっぱなしはツライから。
傘を渡すと、チャドは俺が濡れないように俺寄りに傘を持つ。
お陰で俺はほとんど濡れないけど、チャドは自分の肩が濡れることは全く気付かない様子で。
チャドの優しさに触れた気がして、俺はまた何も言わず歩いた。
雨が、好きになれそうな気がした。