図書室
□▽仲直り
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喧嘩した。
悪いのは、俺。
だけど俺はチャドを殴った。
でもチャドは、怒るでもシカトするでもなく、ただ困ったような顔で、俺が殴り続けるのを黙って受けている。
「なんで…!」
ただ黙って俺の拳を受け続けるチャドにいたたまれなくなった俺は、何もしてこないチャドを地面に押さえ付け、胸倉を掴んで怒鳴った。
「なんで殴り返してこねぇんだよ…!?」
まだ何も答えない。ただただ、困った顔で俺を見つめるだけ。
数発、顔をまた殴る。
こんなにも殴っているのに、チャドは全く痛がるそぶりを見せない。
実際、俺くらいの力じゃ全然痛くないのかもしれない。
痛いのは、チャドを殴っている俺の拳でもなくて、殴っているはずの俺の心の方だった。
「一護」
ようやく、チャドが俺の名前を呼んだ。
「どうして俺がお前を殴らなきゃいけないんだ?」
なんでって…。
「お前、俺を怒らないのか…?」
「どうして怒る必要がある?」
チャドはホントに不思議そうな顔で俺を見上げている。
「俺が悪いのに、俺がお前を殴ってる…なのに、なんでお前は俺を殴らない」
チャドは困ったように笑って、言った。
「お前が自分のことを悪いと思っているなら、なにも正す必要ないだろ」
チャドの言うことは正しい。
正しいからこそ、なんか余計にムカついた。
腹いせにまた顔を1回殴って、その場から走って逃げた。
あれから何時間経っただろう。
謝りに行かなきゃいけないのは分かってる。
だけど、どうしても踏み切れなかった。
意地を張っていることは分かってる。
だけど、チャドの顔を見るのが少なからず怖いと思った。
ふっと、背後の日暮れの赤色が暗くなった気がした。
気付いたら、チャドが俺の背中に背中を向けて座っていた。
「…チャド」
チャドは黙っていた。
きっと、俺が謝るのを待ってくれているんだと感じた。
俺から切り出さなければ。
「…チャド……ごめんな」
顔が見えないからか、すんなり言葉が出てきた。
不意に髪の毛をぐしゃぐしゃされる。
振り向くと、チャドは不器用に笑った。
始めから、チャドは怒ってはいなかったけど、自分から謝れて良かったと思った。
そして、こいつの友達で良かったと改めて思った。