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04.ハロウィンの奇跡
「えーっと…忍足?」
目の前の狼は、暫くの沈黙の後、コクリと頷いた。
悪魔に、吸血鬼。
その次は、どうやら狼男らしい。
「ほら、狼に喰われちまうぜ。こっちに――」
「きゃああああ!可愛い、何この子!うわ、もふもふ!」
跡部が何か言っていたけれど、私にはまったく聞こえなかった。
動物好きの私としては、目の前のこの子が可愛くてしょうがない。
ああ、癒される。
サイテー男のことも、訳の分からない天使の顔した悪魔のことも、俺様吸血鬼のこともどうでもよくなってくる。
「おい、ソイツは忍足だぞ」
「うん?」
知ってる。
だからなに?と狼に抱きついたまま振り返ると、跡部はまた舌打ちをした。
「何でそんな態度違うんだよ」
「何が」
「忍足に対しての態度が、だ」
いきなり襲ってきた吸血鬼と、助けてくれたもふもふ狼。
態度が違くて当り前だと思うんだけど。
そう言うと、跡部は不機嫌そうな顔をしたまま「もう、いきなりは襲わねぇよ」と呟いた。
「次からは許可を得てから襲う」
「…許可するつもりはないんだけど」
呆れていると、「離して」と言いたげに狼の前足でそっと押された。
しぶしぶ離すと、廊下が少し暗くなった。
月が、雲に隠れたみたいだ。
「あ」
いつの間にか人型に戻ってしまった忍足は、また月が現れる前にカーテンをしっかりと閉じてしまった。
残念、と思っているのが顔に出たのか、忍足は溜め息を零した。
「お嬢ちゃん。俺は、狼男や」
「え?うん、分かったよ?」
「狼やけど、中身はふつーの男やねん」
「うん?」
「…無防備に抱きつかれると、襲ってまうよ?」
困ったように笑う彼に、ドキリとした。
誤魔化すように笑うと、腕を掴まれた。
グイッと引っ張られ、思わず転びそうになるのをなんとか持ちこたえた。
「あ、跡部?」
声をかけると、ちらっとこっちを見たと思えばそのまま何処かへ歩き出した。
なんなんだこの吸血鬼は。
忍足も呆れたようだったが、引きとめることなく着いてきた。
「自分が月見せたんやろ?」
「うるせぇ。さっさと会場に行くぞ」
「はいはい」
さっきまでは、どんなに走っても出れなかったのに、あっけなく広く開けた場所にでた。
大きな扉の前で、彼らは足を止めた。
すると、ギー・・・という音とともに、その扉はひとりでに開いた。
「うわぁ・・・」
扉の中の世界に、私は思わず声を漏らした。
大きなシャンデリアが目立つ、広間には何人もの人(・・・だといいな)が歓談していた。
立食パーティーらしい。料理が並べられ、ウエイターがグラスを持ってまわっている。
・・・あのグラスの中身って・・・赤ワイン、だよね?あ、あはは・・・。
気にしないでおこう。
「やぁ小雪」
できれば目の前の悪魔も気にしたくない。
でも、ばっちり目が合ってしまっては誤魔化しようがない。
「遅かったのぉ、お前さん達」
幸村の後ろから出てきた、銀髪の男。
そろそろキャラが出てきても吃驚しなくなってきたよ。
彼は、仁王だ。
「…あなたは何の魔物なんですか?」
「なんじゃと思う?」
出来れば忍足みたいな動物系を希望します。
あー…でも、仁王だから…天邪鬼、とか?
それは妖怪か。ん?でも妖怪も居るのかな?
魔物だったら…なんだろ。
「仁王は、天使だよ」
幸村のセリフに、思わず吹いてしまった。
仁王が、天使…?
「嘘でしょ」
「うん。ウソ」
「……キツネとの半妖じゃ」
ポンッ、と音とともに現れた九本の尻尾を持つ銀色のキツネを見て
私が抱きついたのは言うまでもない。
Title by BLUE TEARS