Hyotei

□後編
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「え…っと、どうして、」




聞いといて、自分が何を聞きたいんだか分らなかった。

どうして、私の家を知ってるの?

どうして、此処に来たの?

どうして…そんな、顔、してるの?







久しぶりに会った侑士は、いつもみたいな落ち着いた表情なんかしてなくて。

不安そうな、思いつめたような、それでも嬉しそうな…

色んな感情が混ざった顔をしていた。




「小雪…」

「…っ」




真っ直ぐ見つめられて、名前を呼ばれて、ドキッとした。
よく別れるって言えたなぁ私。



こんなにも、この人が好きなのに。





「小雪…自分と、話がしたい。中に入ってもええ?」

「……う、ん」





どう接したら良いのか分からなくて、ぎこちない返事しか出来なかった。


話ってなんだろう。
やっぱり、皐月の言う通り振られたのが許せないとか…?

侑士ってそんな人だったっけ…?


何を言われるのか分からなくて、ビクビクしながら待っていた。
目を合わせづらかったから、視線を床に落としたまま。




「…なぁ、小雪」




来た…!


ビクッと肩が揺れた。
恐る恐る顔を上げると、切なそうな表情を浮かべた侑士が目の前にいた。

思ったより近くてびっくりして、離れようとしたら抱きしめられた。




「え、あ、侑―…」

「俺は、アイツん事が好きやった」






アイツ…

跡部君の彼女さんのこと、だよね?
いやだ、そんな話は聞きたくない。認めたくない。
侑士の腕から逃げようとしたけれど、さらに強く抱きしめられてしまった。




「い、痛いよ、侑士」

「俺な、アイツが跡部と付き合いだしたとき、笑えんかったんや」




ちょっとだけ…ほんとに、ちょっとだけ力を緩めてくれた侑士は、私を抱きしめたまま話し出した。侑士がどんな顔をしてるのか見えなくて、何が言いたいのかさっぱり分からなくて。でも、何かを伝えたいんだと思って私は黙って話を聞いていた。





「小雪と付き合うたのも、自分の気持ちを誤魔化すためやった」





やっぱり、そう、だったんだ…

今まで色んな人にそう言われてきたけど、本人に言われるのが一番辛い。この体制でよかったかも。泣きそうな顔を見られなくて済むから。





「けど、な」





そう思ってたのに、このタイミングで侑士は体を離してしまった。本当は侑士の胸に顔を埋めて見られないようにしたいけれど、別れた今そんなこともできなくて、ただただ下を向いていた。

ダメだ、俯くと、涙が…






「小雪」





切なそうな声で、名前を呼ばれた。
そっと頬に触れた手に促され、顔をあげた。




「ごめんな」




堪えきれなかった涙が、頬を伝って零れ落ちた。

ああ、これで本当におしまいなんだ。







「俺な、ずっと、アイツだけを好きでいると思ってたんや…だから、気付かんかった」







別れようって言ったあの日。
侑士からは何も言われなかった。
言われる前に、逃げたから。



だから、改めてさよならを言われたんだと思った。


なのに…





なんで、キス、するの?








息も出来ない程のキス。
こんなキス初めてだ。
急に侑士が怖くなって、顔をそらして必死になって口付けから逃げた。





「やっ…!」

「逃げんといて、小雪…俺が、悪かったから…」

「何…んぅ…っ」




逃がさないとでも言いたげな手が頭にまわされ、しっかりと固定されてしまった。
頭の中はもうパニックだ。なんでキスしてるの?上を向いてる所為で首が痛い。息が、苦しい。クラクラする。


やっと解放されたころには、息が乱れていた。頭がぼーっとして、力も入らなくて。そのままずるずると座り込んでしまった。






「小雪、許してとは言わへんよ。せやけど、これだけは分かってや」






俺は、小雪が好きなんや。



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