Hyotei
□You are my Valentine
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やっときた放課後。
ずっとイライラしていたからか、とても長く感じた。
どうせ渡すものもないし、さっさと帰ろう。
そう思って教科書を鞄につめていると、教室の入り口に景吾の姿が見えた。
後ろに控えた樺地がダンボールを抱えている。中身なんて聞かなくても分かる。
あれだけ貰えば、私のなんていらないでしょうね。
景吾がいない方のドアから出て、スタスタと廊下を歩く。
黙って着いてくる景吾を無視して歩き続け、校門に差し掛かったところで見覚えのある黒塗りの車が目の前に止まった。
「なっ…」
咄嗟に後ろに下がると、抱きとめられ、気付いたら車に乗せられていた。
なんて手際の良さ。もちろん、犯人は…
「景吾、おろしてよ」
彼が「はいそうですか」と言う訳もなく、車は走り出した。
睨んでも涼しい顔。あー…イライラする。
車が止まるまで、沈黙は続いた。
「着いたぞ」
「…ここ、私の家じゃないんだけど」
「誰もお前の家に送るとは言ってないだろ」
「じゃあ送ってよ」
「何イラついてんだよ」
「別に?」
車は、景吾の家の前で止まった。降りようとしない私に、景吾は不機嫌に―…なるどころか、何処となく嬉しそうな顔をしていた。
「何よ」
「そんなに妬かなくても良いだろ?俺様がモテるのは、今に始まったことじゃない」
「はぁ?妬いてなんかないし」
「意地を張るのはお前の勝手だが…そこで拗ねてても、運転手を困らせるだけだぞ」
どうやら、私を帰す気はないらしい。
運転手も苦い顔をしている。渋々車から降りると、ふわりと体が浮いた。
「って、ちょっと!」
「素直に俺の部屋に来い」
「わ、分かったから、降ろしなさいよ!」
いわゆるお姫様抱っこの状態で、行儀よく頭を下げているメイドさん達の前を通るのはもの凄く恥ずかしい。
それに、落ちそうな感覚がするお姫様抱っこはどうしても好きになれない。
「安心しろ。落としたりしねぇよ」
「べ、別に怖いから言ってるんじゃないくて、」
「暴れると本当に落とすぞ」
「やめてよ!」
落とされたらたまらないと、必死で景吾の首にしがみつく。
ククッ…と笑った景吾の声が聞こえた。からかわれたのだと気付きムカついたから必要以上にしがみついてやった。