Hyotei

□君との未来を
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「跡部?誰、それ」

ニッコリと微笑んだ朝霞を見て、俺は悟った。

(また随分と派手に喧嘩しよったな…)





+君との未来を+




中学ん時から俺と仲良かった朝霞は、何がどうなったんか分からんけど高校から跡部と付き合うことになった。

散々俺に「何あの俺様、馬鹿じゃないの」と文句を言うとった朝霞が「まぁ、そーゆーことよ」と頬を染め跡部と手を繋いどったのを見たときの驚きというたら…ポーカーフェイスが崩れるどころの話や無かったな。

まぁ、そんなことはどうでもええねんけど。
問題は、この二人がどうやら本気で喧嘩をしたってことなわけで。


なんだかんだで毎日のように痴話喧嘩はしとった。ちっさい喧嘩や。

デートのお金は全額男が払うとか払わないとか、人前でキスは嫌やとか気にするなとか、歩いて帰るか車で帰るかとか…

俺としてはどうでもええて思うことばっかりやけど、本気で言い争っとった。で、お互い反省して、次の日の朝にはケロッとしとる。それがあいつらやった。


それが、今回はどうや。朝霞がめっちゃ根に持っとる。

いつも教室に来て真っ先に惚気という名の愚痴を零す朝霞が、何も言わずに席に着いた。そして冒頭のあの台詞。

完全に跡部の存在を抹消しよったな。


朝霞からピリピリした空気が教室全体に伝わっとる。いつも騒がしいクラスの奴らがシーンとなっとる時点で、朝霞の影響力の凄さを実感するわ。しゃあないから、ここは俺が仲直りの手助けをしたろと思った。



「何があったん?」

「何が?」

「機嫌悪いやん」

「別に?」



窓の外を眺めながら、朝霞は俺の質問を秒殺した。

朝霞、俺はお前に何もしとらんやろ。




「俺に当たるなや」

「当たってなんかいないわよ」

「当たっとるて」



理由話してさっさと解決して平和を取り戻したいんです、俺は。

ここは友人っちゅー立場をフル活用して、原因を追及するべきやな。
話ぐらい聞くでと優しく声をかける。すると、しぶしぶといった感じでと朝霞は口を開いた。




「…景吾と、喧嘩した」




いや、それは分かっとんねん。その原因を教えろっちゅー話や!て、言いたいとこやったけど、此処は我慢や。「そうなんか…何で喧嘩してもうたん?」とゆっくり聞き出してくことにした。

…なのに。
なんでまたダンマリやねん。



「朝霞、黙ってたら分から―…」

「ひっく…う…」

「…………は?」



俯いとった朝霞の肩が小さく震えとる。かすかに聞こえる押し殺した声に、鼻をすする音。




何で泣いてんねん…



跡部並みのプライドの持ち主や、人前で泣くとかあり得へん。そんな朝霞が教室で泣くとか…何があったんや。




「朝霞、大丈夫か?」

「うぅ…っ…」




ボロボロと涙を流す朝霞。びっくりしとるのは俺だけやない。別の意味で静寂に包まれた教室。



「ひとまず、人が少ないとこ行こか?な?」



コクコクと頷く朝霞を見て、俺は周囲に目配せをし道を開けてもらった。

泣き顔は見られたないやろな。ブレザーを脱いで朝霞にかけ、俺達は教室を出て行った。





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