Hyotei
□本気モード
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「どないしてん、そんな顔して」
「うるさいバカ」
「俺に当たってもしゃあないやん」
分かってる。
ただ、ぐるぐると頭の中に巡る感情をどうしたらいいのか分からなくて。
「自分から振ったんやろ?」
「…うん」
「どうせやり直したところで、また自分が辛い想いするだけやの分かっとんのやろ?」
忍足が淡々と述べてく言葉に、堪えていた涙が溢れ出しそうになる。
「子供、だったの。お互い」
「それで?」
「単なる我が儘だった。馬鹿なのは、私だけだった」
後悔すればいいと思った。
でも、後悔しているのは私だ。
彼の温もりが忘れられない。
「どうしたら、いいんだろ…も、訳わかんない」
「ホンマにアホやなぁ」
「だから、知ってるってー…」
「いや、何も知らんよ自分は。あんな男を振ったて聞いて利口になったんやて思っとったけど。ホンマ、どうしようもないアホやな」
急に苛立った様子を見せた忍足に驚いた。
彼はいつも、優しくて、温かい人だったから。
「お、したり…?」
「どうしたらええか、やったな。教えよか?」
耳元で囁かれた甘い言葉。
感じる吐息。
見たこともない表情――…まるで、捕食者のような。
――あんな男さっさと忘れて、俺のコト好きになり
こんな忍足を私は知らない。
少し怖くなって後ずさるけど、忍足の腕がそれを許してはくれなかった。
「逃げろなんて教えてないで?」
「お、忍足、落ち着こう、ね?」
「これでも冷静に振る舞ってるんやけどなぁ…」
どこが…!?
心の中で盛大なツッコミをしたけれど、実際にはそんな余裕は一切なかった。
おかしいよ、私。
なんで、こんな…
忍足は、友達で
よく、相談に乗ってくれて
だから、忍足にドキドキするなんて、ありえないのに
「好きやで、小雪」
見慣れたはずの彼の顔が近付いてくるのが分かっても、それを拒むことは出来なくて
気が付いたら、さっきまでの悩みなんて忘れていた。
+本気モード+
(待つんはもう、やめにしたわ)
***Title by BLUE TEARS