Hyotei
□僕の心を満たす人
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どんな恋愛映画を観ても、恋愛小説を読んでも。
恋とか、愛とか。俺には無縁の物やと思っとった。
一番有り得へんのが一目惚れ。
人の外見だけ好きになって、その恋が続くわけあらへんと思う。
俺には一目で恋に落ちるその心理が理解できへん。
普通の高校生やけど、何故か俺にはファンっちゅーもんがある。
中学からやっとるテニスでレギュラーになって、全国大会にも出たりしたから、少しは有名なんやろなぁて自覚はある。
後輩が「忍足先輩って凄いっす!俺、先輩みたいなテニスがしたいです!」て言うてくれたら悪い気はせん。
せやけど、俺のファンっちゅーのはテニスも俺のこともよぉ知らん女の子が多い。
ファンの子の何人かには、好きですって告白される。
俺の何処が好きなん?
そう問うと「全部」て答える子がだいたい80%くらいやね。
「全部」て、なんや。
部活仲間には心を許している方やと思う。
せやけど、そいつらの全部が好きかっちゅーと、答えは否や。
家族やて、従兄弟やて、好きやし見習わなあかんなて思うトコもたくさんあるけど、同じように嫌いなトコ、俺とは合わんなぁってトコもある。
「全部」を好きって、どーゆーことなんやろ。俺には理解できんかった。
ちなみに、残りの20%は、俺の顔やて答えたり、クールなトコて答えたり…
それも、ピンと来んかった。
それが、俺やった。
「あん時の俺が今の俺見たら、吃驚するやろなぁ…」
今は、誰よりも愛しいと思える子を見つけた。
有り得へんかった一目惚れが始まり。
笑ってまうわ、ほんまに。
岳人に辞書貸したら、小雪が返しにきた。
それが、俺達の出会いやった。
小雪は岳人と同じクラスで、席も隣。
『ワリィ、それ侑士に返しといて!』
そう言われた小雪が、岳人の代わりに俺の教室にやってきた。
小雪に会った瞬間、呼吸すら出来んほどの衝撃を受けた。
それ以来、小雪を見ると胸が苦しくなって、病気かと思ったわ。
ケンヤからの電話で病院行こうか迷ってんねん…と至極真面目に告げたほどや。
そん時ケンヤに『それは恋の病やな…って、何言わすんじゃドアホっ!』と言われ、初めて恋を自覚した。
自覚したら、すんなりと納得した。
ああ、これが恋なんやと。
「どーしたの、侑士」
「ん?小雪が好きやなぁて、思うて」
「なにそれ」
腕の中でクスクスと笑う小雪。
この子の何処が好き?て聞かれたら、こう答えるわ。
――全部。
分かってもうた。
「全部」が好きって意味が。
小雪の存在自体が、好きやねん。
せやから、何処がって言いようがない…っちゅーか、キリがないわけや。
もちろん、たまに不満に思ってまうこともある。
特に、他の男と話して笑うたりするのを止めてほしいわ。今すぐに。
比較的趣味とか考えとか合うけど、もちろん100%合うわけやない。
でも、小雪が好きなら俺も好きになる。
小雪が楽しそうにしたり、幸せそうな顔したりするんが俺の趣味やな。
すれ違ったり、喧嘩したりする。でも、一人の人間として尊重しとるし、小雪の意見も大切にしたいて思う。歩み寄る過程すら、愛しいと思う。
小雪の頭にキスを落とし、もう一度強く抱きしめる。
苦しいと言いつつも抱きしめ返してくれる小雪が可愛くてしゃあない。
「今なら、俺も共感できるわ」
「なにを?」
「俺は、小雪の全部が好きなんや」
好きになったんは、小雪が可愛ぇからとか、脚が好みやったとかゆー理由だけやない。
運命の人てなんやねんて思っとったけど。
冗談なんかやなくて、小雪が俺の運命の人や。それを一目見て気付いたから、小雪に惹かれたんやと思う。
「小雪が、俺の全部や」
「そうなの?」
「笑いごととちゃうで」
真面目な顔して言うたら、また笑われた。
それでも、笑っとる小雪の頬が赤くなっとるから、俺も笑ってもうた。
一目惚れから始まる恋。
運命の子に逢えて、嬉しさに心がはねて。
相手を知ってゆくほど、愛おしさが込み上げてくる。
「愛しとるで、小雪」
「……侑士、なんだか今日は大サービスだね」
「小雪に好きて言いたい気分なんや」
僕の心を満たす人
君が僕のすべてだから
***Title by BLUE TEARS