Hyotei

□私を見て
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「侑士―?」

「んー?」

「…聞いてる?」

「聞いとるよー」









嘘だ。

さっきから、こっち向いてくれないじゃないか。



侑士の部屋は、なんだか落ち着く。
だけど、一人じゃつまらない。




「侑士!」

「ちょお待って、もう少しで読み終わるから」




侑士を夢中にさせてるその本は、明日公開される映画の原作。先に読んでおきたいからと跡部から借りたんだって。初日に観に行く気満々の侑士は(まぁ、私も一緒に行くんだけど)、何が何でも今日その本を読み切りたいらしい。



「……忙しいなら、帰るよ?」

「せやから、もう少しで終わるから待てって言うとるやん」

「その厚さは少しじゃ読み終わらないってば!最後まで読むんだったら帰る」

「あかん」

「つまんない!」

「分かった、読むペース上げたる。せやから、ええ子に待っててな」






真剣に読み出した侑士。
…あれですか。
心を閉ざすってやつですか。

こうなったら最後。
侑士は、声をかけても反応しない。




「…何しよう」



本棚から適当な本を選び、パラパラと捲っては戻す。その繰り返し。
ブラインドを開け閉めしたり、観葉植物を眺めてみたり。

…すぐ飽きたけど。

もう、これ勝手に帰っていいんじゃないかな。
じーっと侑士を見つめる。



足を組み、椅子の背にもたれながら真剣な顔をして本を眺める彼の横顔。
一枚一枚紙を捲る、長くて綺麗な指先。

その指が本をパタンと閉じ、しばらく目を閉じて余韻に浸って。
ゆっくりと息を吐いて、こっちを向いたその時。



…たぶん、ものすごーく甘い笑顔で「小雪」って名前を読んでくれる。
それを考えたら、帰るに帰れない。


ああ、もう。


(本読み終わったら、いっぱい甘えてやるんだから!)






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