□ボクだけのキミでいて
1ページ/2ページ

練習が終わって浜田が待ってる教室まで走った。
別に浜田が待ってるから走ってるわけじゃない。ただ、早く帰りたいからだ。

「好きだよ」

教室に着いてドアが半分開いてた所に浜田が見えたから声をかけようとしたら、浜田の声が聞こえてきた。
よく見たら教室には浜田と女子が一人、いた。
好きって、なに。浜田。

「...すごく、好き。言葉じゃ言い表せないくらい、好きなんだ」

なにを、言ってるのかわからなくて。
浜田が、あの女が好きだなんて、聞いたことなかった。当たり前だ、オレと浜田は付き合ってる。
なのに、なぜ。
心臓が妙に早く動いて息苦しい。
教室に入れなくて、オレは走って家に帰った。

「...っ、は、はぁ...っく...う..」

いつもは家に帰ったら風呂入って飯食って寝るけど、そんな余裕なんてなくて、部屋のベッドに倒れた。
息苦しい。気持ち悪い。
どうして、どうして浜田。オレのこと嫌いになった?どうしてあいつに、好きだなんて言うんだよ。

「...うく...っ...」

涙は止まらずボロボロと溢れる。
頭が痛くなってきた頃、マナーモードにしていたケータイがいきなり鳴りだした。ディスプレイには浜田の文字。
...別れ話?やっぱ女がいいって?..今はそんなこと、聞きたくない。
うるさいケータイを放り投げて、風呂に入って飯食って、その後は鳴り止まないケータイを放置して眠りについた。

ーーーーーー。

「おはよ」
「...」

浜田の顔なんて見れなくて、俯きながら無視をした。
泉?と浜田はオレの名前を呼ぶ。
やめろ、話し掛けんな。

「いず...」

運よく、そこでチャイムが鳴った。
浜田は諦めて席についた。オレも席に座り、浜田を見ないように机に伏せた。

「泉」
「...」
「泉っ!」
「...なんだよ」
「なんで、無視すんの?」
「む、...無視なんか、してねーよ...」
「してんじゃん!今だって、オレの顔見ないで..なんで?オレなんかした?」

なんかした、だと?ふざけんなよ。
お前はオレを裏切ったじゃねぇか。
オレを好きだと言ってたのは嘘だったんだろ?別れたいんだろ?オレはっ、...オレは..別れたくねぇんだよ...!
だから話し掛けんな!嫌なんだよ、別れようなんて、言うな!!

「うるせぇ!!」
「っ!?」
「オレに話し掛けてくんな!」

それでもやっぱり浜田の顔なんか見れなくて、俯きながら怒鳴った。
オレは逃げてるだけ。だけど、嫌なんだよ。

「...なんで」
「...あ?」
「なんで、そんなこと言うんだよ...オレのこと、嫌いになった?」

は、?
なに、言ってんだよこいつ。意味わかんねぇ。
オレがお前のこと嫌い?違うだろ、逆だろ。
お前がオレのこと、嫌いになったんだろ?

「チャイム鳴ったぞー席つけー!!」

しぃん、と重苦しかったオレらの空気は、教師が入ってきて解かれた。
それから休み時間の度にオレは逃げた。
聞きたくないから。見たくないから。
なんとか逃げ切って放課後、部活が終わって野球部のやつらとも別れた頃、人影が見えた。
浜田、だ。

「無視すんなよ」
「...」
「泉、なんで?どうして?わけを聞かせてよ!」
「っ...だ、って..」

口を開いたら涙が溢れそうだった。
下唇を噛んで堪えても、涙は溢れ出してしまった。
もう、無理なのかな。

「な、んで...今更...オレを、捨てる、の..?」
「は?」
「お、...オレのこと、嫌いになった?なんで?どうして...っ」
「ちょ、泉?なに言って...」
「っ、...やっぱり、女がいいんだろ!?は、浜田の、ばか!!」

顔を上げたら浜田の顔が見えた。
驚いたような、困ったような。そんな顔すんなよ。
ボロボロと涙は零れていく。

「っ...うく...」
「泉...なんか、勘違いしてるの...?女ってなに?なんのこと?」
「み、見たんだから、な...昨日、お前、が...教室で...っ、あの女のこと好きだって、言ってたの!」

はー、はー、と一気に喋ったから息が苦しくなった。
浜田は心底わからなそうな顔をした後に、はっ、とした。
くそっ、その顔ムカつく!!!

「あ、あーあー!あれか!!」
「なっ...」
「あれは、違うよ泉」

なにが違うってんだよ。オレはバッチリ見たんだぜ?
なんか言い訳、あんのかよ!

「あれはさ、告白されたんだけど、付き合ってる人がいる、って言ったらその人のこと好き?って聞かれて、好きって返したんだよ」
「な、なん...それ..」

なんだそれは!?意味わかんね!!
つかオレ一人で勘違いして、ばっかみてぇ。
安心したのか、オレの涙は止まりそうだった。

「泉...かわいい」
「なっ、ばっ、ばか!嬉しかねーよ!」
「好きだよ。泉が1番、好き」
「...っはま、」

ぎゅうっ、と抱きしめられて、キスされた。
せっかく止まりかけていた涙がまた溢れてきて、止まらない。
オレも好きだよ、浜田。お前が1番好きだ。
お前の腕の中が、1番落ち着くから。



end.


→あとがき


.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ