□君に触れたがる手
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浜田はよくオレに触ってくる。
別に嫌じゃない。嫌じゃないけど、恥ずかしい。
べたべた触ってくるくせにオレが少し拒むとすぐにごめんと言って離れる。違う。違うんだ、嫌じゃないから。
触れよ。
そんなこと本人になんか言えねーけど。
そんな浜田が最近全くと言っていいほど触ってこなくなった。なんだよ、あいつ、前はしつこく抱きついたりしてたくせに。むかつく。

「い、泉?どうしたの?」
「あ?」

イライラしてなにも手につかない。今日も満足に部活ができなかった。イライラする。
それを悟ったのか栄口が話しかけてきた。栄口になら、言ってもいいかな。こいつなら茶化さず聞いてくれるし。

「浜田が...」
「浜田さんが?」
「オレに触らない」

オレがそういうと、栄口は黙ってしまった。言い方が不味かったのか。
そろりと栄口の顔を除くと、顔を真っ赤にして目を反らしていた。
それにオレはビックリして、二人の間に妙な沈黙が現れる。それを先に破ったのは栄口だった。

「あっ、のさ!」
「お、おう」
「あのさ、前から気になってたんだけど、その、泉は浜田さんと付き合ってるの?」
「....」
「いやその、触らないとか、なんとか...そういう関係なのかな、って」
「...うん、」
「そっか、ならさ。泉から触ってみたら?」
「オレから?」
「うん、きっと浜田さん、待ってると思うよ」

オレから?浜田に?
そういえばオレから浜田に触ったことはない。
告白したのも、手を繋ぐのも、キスするときも、全部浜田からだった。
そうか。だから、だからオレから。
思い立ったらすぐ行動。オレは立ち上がって走った。後ろから栄口の頑張れよーの声を聞きながら。浜田のもとへ、全速力で。

「浜田ぁ!!」
「うおおっ!びっくりした!なになに泉どうしたの?」
「ちょっと面かせ」

親指をくいっとあげて浜田を呼んだ。浜田は応援団の人たちにちょっと行ってくるーと言ってオレのあとを着いてきた。
屋上に繋がる階段で立ち止まって、くるりと後ろを向く。段差のせいか、浜田の視線がいつもと違う。
いつもなら見上げてしまうのに、今は同じぐらいだ。あぁ、この段差が15センチ差なのか。
普段届かない、お前の背丈。

「浜田、」
「ん?」

浜田の体をぎゅううっ、と抱き締める。段差のせいでちょっと苦しい距離。だけど安心する。
いつもはオレがスッポリ収まってしまうぐらいでかい浜田の体を、今はオレが抱き締める。
あぁ、なぜだか泣けてくる。どうしようもなく、涙腺が緩む。

「え、な、なになにな、え?泉なにどうしたの?」
「別に」

浜田の手はオレを抱き締めない。いつもなら抱き締め返すのに。
なんで、なんでだよ、

「なんで触んねぇの」
「え?」
「いつもはしつこいぐらい触ってくるくせに、最近お前変だし、オレのことがイヤんなったなら言えばいいだろ」
「え、なに、え?」
「嫌いになったって、言えばいいだろ」
「えっ、ち、ちがっ、違うよ泉!」

そう言って浜田はぎゅううっ、といつもより抱き締めてきた。いてーよばか。
ごめんねごめんねと謝ってるくせに、浜田の顔はへらりとしていた。
むかついたから頬を引っ張ってやった。

「おいなに笑ってんだテメー」
「いひゃ、いひゃいよいふみ」
「なんだよ、なにが違うんだよ」
「だって泉、イヤがってたじゃん」
「あ?」

そこで浜田はオレを抱き締める手を緩めて、すぅっ、と息をはいてオレを見つめる。
久しぶりに見た、オレを見るその目にドキリとした。

「ずっと、いつだってオレは泉に触りたいよ。けど泉はいつも拒むでしょ?嫌われたくないんだ。やっと手に入れた、ずっと好きだった。手放したくない。大切にしたいんだよ」

真剣な顔で言っていたと思ったら、いきなりへらりと笑って、好きだよと言われた。
なんだよ、なんなんだよお前。オレはいつも浜田のせいで乱される。むかつく。
浜田も困ればいいのに。

「あのよー、浜田」
「ん?」

はぁー、と息をはいて浜田を見る。
ふっ、と笑って浜田の胸ぐらを掴んで引っ張る。うわっ、と言ってよろける浜田の唇に自分のそれをくっつける。
びっくりした浜田は一瞬目を見開き、静かに閉じた。
はじめてオレからしたキスは、歯が当たって痛かったけど、幸せだと感じた。

「っ、い、いずみいぃぃぃ...」
「...なんだよ」
「反則!反則だよ!いきなりキスとか!しかも泉からとかはじめてだし!」
「いーだろ、別に。たまにはオレからでも」
「い、いいけどさぁ....」

二人で顔を真っ赤にして、もう一回キスをして、抱き締めあった。
久しぶりに感じた浜田の体温は、暖かくて、心地よかった。


end.


→あとがき

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