□何度でも恋に落ちる
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「浜田が...階段から...落ちたぁ!?」

あんのばか!なに考えてんだよ!階段から落ちるなんてばっかじゃねーの!?

「浜田!」

保健室に運ばれたと聞いたから保健室まできた。
カーテンを覗くとすやすやと寝ている浜田がいた。
なんだ、心配させやがって...よかった。

「んだよ...心配させやがって...」
「...ん、」
「起きたか」

目が覚めた浜田はぼーっ、としていた。上半身を起こして周りをキョロキョロ見渡していた。
なにしてんだこいつ。

「おい?」
「...誰?」
「、...は?」

なにを、言ってんだこいつ。
誰、って。お前、誰に言ってんの。

「浜田ー!大丈夫かー!?」

訳がわからなくてぽかん、としていたら、浜田のことを聞いた田島や三橋、花井やら野球部全員と梅原先輩と梶山先輩がきた。
目が覚めている浜田を見てみんなはよかったー、と言ったが、浜田はぽかんとしていた。

「あの...お前ら、誰?」

場が、しん、とした。
嫌な空気だ。誰も、喋ろうとしなかった。
そんな中、田島が浜田に話し掛けた。

「オレのことわかる?」
「え...ごめん...自分が誰なのかも、わからないんだ...」
「...お前は、浜田良郎。1年9組でオレと、泉と三橋と一緒のクラスだよ」

田島がそう言ってから、みんな浜田のことについて知ってる限りの情報を言い合った。
ただ、オレはなにも言わなかった。
わからない。なんで浜田は記憶を失ったんだ。
オレのこと、なんでわかんないんだ。

「あと、お前と泉は..」
「っ田島!!」
「泉?」
「...それは、言わなくていいから」
「で、でもよ!」
「いいから」

オレと浜田は付き合ってる。だけど言わなくていいから。
記憶を失った浜田に、いきなりオレと付き合ってるなんて言ったら混乱するだろ。
男同士だし。言わないほうがいい。

「なんか、ごめんな。みんなのこと忘れちゃって...」

謝ってる浜田は痛々しかった。
その時保健の先生がきて、浜田が記憶喪失だということを言ったら急いで病院に連れていった。
オレはそこから動けなかった。田島に無理矢理教室に連れてかれたけど。

「泉、しっかりしろよ」
「...おう」

授業なんか聞いてなくて、わからなくて、浜田のことで頭はいっぱいだった。
その日どうやって部活に行ったのか、どうやって帰ったのか、なにも覚えてない。
ただ、起きたら朝だった。

「あ、えと、泉!おはよー」

どきり、とした。
浜田の声だ。いつもと変わらない。だけど、違う。これは浜田だけど、浜田じゃない。

「..はよ」
「元気ないなー」
「お前は元気だな」
「ははっ、記憶なくしちゃったけど、暗くしてたらみんな心配すっからさー」

気遣いは変わらない。そこが浜田のいいとこだ。
だけど痛いよ、浜田。お前の笑顔見ると、嫌だ。
好きだけど、お前のこと好きだけど、違うんだ。お前じゃない。いつもの浜田がいい。

「浜田!泉!はよ!」
「おー」
「はよー!」

みんな浜田の記憶喪失のことは知ってる。だからいろいろ接しているんだ。まぁ浜田はもともと人気があるやつだったけど。
女子も話し掛けてるよ。そんな中に、オレはいかない。いけないでいる。
もう、嫌だ。

「泉ー」
「...なんだよ」
「今日さ、部活の帰りでいいから、勉強教えてくんね?」
「はぁ!?なんでオレが!」
「だって泉とは長い付き合いらしいし...ダメか?」
「...別に..いい、けど...」

あーあ、なんで断れないんだろ。

「じゃ!帰りオレん家きてな!」
「あー、はいはい」

いつもの浜田みたいだ。だけど違うんだな。
部活が終わって、浜田の家に向かう。浜田は笑顔でお疲れ!と言った。
飯食って、浜田に勉強を教えた。別にオレは頭がいいわけじゃないけど、浜田よりはわかる、と思う。

「あ、そういえば今日オレさー」
「なんだよ、つか口より手動かせ」
「告白されたんだ!」
「ふーんあっそ。って...」

え?
なにこいつ。なに言ってんだこいつ。
へらりと笑ってんなこと言ってんじゃねーよ。

「記憶なくしても変わらないオレが好きとかでさー」

聞こえない。なにも、聞きたくない。
やめろ浜田。

「結構かわいい子だし、付き合っちゃおっかなー。泉はどう思う?」
「しるかよ。いいから勉強しろ」
「冷たいなー」

聞きたくねんだよ。わかれよ。まぁ無理だろうけど。
それでも浜田はオレが聞きたくない話をべらべらと話す。うるさい。

「泉は彼女とかいねーの?」
「いねーよ」
「ふーん。野球部忙しそうだもんな。だけど泉って人気あるだろ?付き合ったりしねーの?」

あぁ、うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさい。

「うぜぇ」
「え、」
「もう、うるさいよお前。勉強しねーんだったらオレ帰る。つーかお前告白されたこと自慢したいだけだろ」
「いや、まぁそれもあるけど...ごめん!怒ったなら謝るから...帰んないで!」
「...もういいよ、帰る」

待って、と言う浜田の声を無視してドアを閉めた。
記憶がないからしょうがないんだろうけど、嫌なんだよ。なんで浜田が付き合うとかどう思うとか聞かれなきゃいけないわけ?聞きたくない。
その日から浜田を無視した。話し掛けてくるけど相槌のみ返した。話したくない。見たくない。

「泉」
「...」
「こっちきてよ」

返事を言う前に腕を引っ張られた。連れて来られたのは、人気のない屋上。チャイム、鳴ってんだけど。
オレ、今のお前といたくないよ。

「なんだよ」
「なんで無視すんの?」
「してねーし」
「してるじゃん!」
「してねーよ。今だって話してんだろ」

ほんとは嫌だけどな。お前の顔見るのも嫌。
浜田の視線に堪えられなくて、目を反らした。
するといきなり浜田はオレの顎を持ち上げて、キスしてきた。
...え、キス...?

「なっ、なっ...にす...」
「わかんない...」
「は?」
「わかんない...けど...泉に無視されんの!嫌なんだよ!」
「なに言っ...んん、」

言う前にまた唇を塞がれた。なにすんだなにすんだなにすんだ!
わかんないのに、わかんねーくせに、キスなんか...

「...っひく..」
「え...泉..」
「...う、うく...うぇ...ば、ばかやろう...」
「ご、ごめん...」

考えたら涙が溢れてきた。
浜田、お願いだから記憶取り戻してよ。オレのことわかってよ。

「いず...」
「ち、近づくな!!!」

浜田の顔が近づいてきた時に浜田を押し返した。
軽く押したつもりだったけど、ふらついた浜田は頭を打って気絶してしまった。
や、やべ。どうしよう。

「お、おい...浜田..」

目、覚まさない。どうしよう。
そんなことを考えてると、いきなり腕を引っ張られて体制を崩した。

「いて...」
「...ごめん泉、好き」
「は...?」
「つーか...オレって記憶なくしても泉好きになるんだなー...はは、すっげー...」
「な、に言って...」
「記憶、戻ったよ。心配かけてごめんね」
「は、浜田...」

へらりと、いつも見たいに笑ってる。オレの涙は止まらなかった。
よかった、浜田。よかった...

「あー、泣かないでよ泉ぃ」
「な、泣いてねーよ!ばか!」
「はは、ごめんごめん」
「...ま、記憶戻ってよかったな...」
「うん。泉、ごめんね」
「別に...」

記憶が戻ったならもういいよ。
むかつくこともあったけど、オレのこと思い出してくれたし、記憶なくなっても好きになってくれた。
でもやっぱり記憶のない浜田より、今の浜田がいい。だから、よかった。

「好きだよ」
「えっ、いずっ...」

オレから、はじめて触れるだけのキスをした。
それに嬉しがって浜田が抱き着いてきた。いつもなら振りほどくけど、今日くらい許してやるよ。



end.


→あとがき


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