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□ただいま、おかえり
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あの日から、なんかおかしかったんだ。あの日から、って言うか、あの日。
いつもならバイトがあって早く帰る浜田が、オレの部活が終わるまで待っていた。なにしてんだよ、と言えば、一緒に帰ろうと、浜田はへらりと笑った。
まぁいいか、と思いながらも一緒に帰った。けどいつもならぺらぺらどうでもいい話をするくせに、あまり話題もなくて沈黙。
なにかあったのかと思って聞いても、浜田は口ごもるだけだった。
おかしいのは確かだった。だって、いつもならまた明日、って笑うくせに、その日はまたな、って言ったんだ。
なにか言いたそうだったくせに。浜田はあの時、なにを言おうとしたんだろう。
「あれ、浜田今日も休み?」
「...みたいだな」
あの日から浜田は学校にきていない。一日目はたいしたことないだろうと思ってほっておいたが、もう浜田が休んでから5日が経った。
オレだってなにもしなかった訳じゃない。メールもした。電話だってした。
だけどなんの返事もこなかったんだ。電源が切れてる訳じゃない。繋がっていた。だけど浜田は出なかった。
「...どこ行ったんだよ」
今日も電話をかける。だけどやっぱり浜田は出ない。どこ行ったんだよ。なんでオレに一言もなしに。
部活が終わって家に帰るとき、携帯が震えた。浜田から、電話がきた。
『あ、いず..』
「てめぇ!どこいんだよ!!!」
『ごめん...今、実家』
「は?」
『親父が倒れてさ。ちょっと見舞いのつもりだったんだけど忙しくなっちゃって...電話も出れなくて、ごめんな』
「...大丈夫なのかよ」
『うん、もう大丈夫だって。いつ帰れるかはわかんないけど...』
「...ふーん」
そりゃ大変だけどさ。オレに言えよ。一言、オレに言ってから行けばよかっただろ。
なに遠慮してんだよ。
「オレに..一言くらい言ってから行けよ」
『ごめんな。心配かけたくなくて』
「ばっか!言わねー方が心配すんだろ!!」
『あ...そか、ごめん』
まぁもういいけど。
それより、お前はいつ帰ってくんだ。
「お前、いつ帰ってくんの」
『うーん、なるべく早く帰りたいけどなぁ...泉に、会いたいし』
“会いたい”
...オレも、会いたいよ。
けどお前はそっちのがいいのかもな。携帯から聞こえるのは笑い声。親父さんも大丈夫だって言ってたし、なんか騒いでるんだろう。
楽しそう。浜田は、やっぱり家族といたほうが...
「...浜田は、家族といたほうがいいのかもな」
『え?』
「そっちのが楽しそうだし。ならいっそのことそっちに...」
『なっ、泉!?なに言って...』
「...、会いたい」
『い、泉ぃ!?今なんて...』
「え...あっ!?な、んでもねーよ!じゃあな!」
『え!?ちょ、いず!』
ブチッ、と電話を切った。
な、なに言ってんだよオレ...ばかじゃねーの。
会いたいよ。会いたいけど、やっぱ浜田は家族といた方が...
そんなことを考えていると、ちょうど家に着いた。
「...、会いたい...けど、」
誰もいない部屋で、ぼそりと呟いた。音は帰ってくることもなく、消えた。虚しい。
会いたい。会いたいよ、浜田。
「...ん、」
目が覚めると朝だった。
風呂にも入らず、飯も食わず寝てしまったんだ。
さすがにこのまま学校に行くのも嫌だったから、軽くシャワーを浴びてから家を出た。どーせ練習で汗かくし、髪とかそのまんまでいいや。
「泉、はよー」
「おー」
朝練はいつも同じなのに、その日は妙にしんどく思えた。
朝練が終わって教室に入る。浜田の席は、空席のまま。
「浜田、まだこねーのか?」
「みたいだな」
「泉なんか聞いてねーの?」
「...親んとこいんだよ。ほっときゃ帰ってくんじゃね」
「ふーん」
帰って、くるかな。浜田はちゃんと帰ってくる、そう信じてるけど、もしかしたら...
あぁダメだ。考えたら頭痛くなってきた。
帰ってくる、よな?浜田...
「泉ー!!!」
「んだよ」
席に座ってぼー、としていたら、いきなり田島がオレの名前を呼んだ。
こっちこいよ!と言われたのでしぶしぶドアに近づく。
「なんだよ、たじ...」
え、
「泉」
「はま、だ...」
目の前にはへらりと笑ってる浜田の顔。
なんで、いるの?帰って、きたんだ...
ぽたり、頬に涙が伝った。溢れ出した涙は止まらなくて、拭っても拭っても止まらない。
そんなオレを見て、浜田は俺の肩を掴んだ。
「田島、ちょい次サボるわ」
「ん!よかったなー!泉!」
ニシシ、と笑って田島は教室に入っていった。
オレらは誰も使われてない空き教室にきた。浜田はオレをじっ、と見て、それから笑った。
「...なんだよ」
「あは、オレが帰ってきただけで泣く泉がさぁ、かわいくて」
「なっ...!ば、ちげーよ!」
「あはは、好きだよ泉」
そう言って、浜田は触れるだけのキスをした。
あぁ、浜田が帰ってきた。浜田は、ちゃんと帰って来てくれた。
「...おかえり」
今度はオレから触れるだけのキスをした。
浜田は一瞬びっくりした顔をしてから、またへらりと笑った。
「ただいま!」
end.
→あとがき
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