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□ばかな俺達
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『浜田が好きだ』
そう言ったのに聞こえないふりをされた。
だけどその時浜田は笑ったから、なにも言えなかった。
「泉、飯は?」
「あー、食う」
「んじゃ用意してー」
いつもの様に浜田の家で飯を食う。いつもと変わらない浜田に、あの時ほんとに聞こえていなかったのか?と思う。
いや、あの時は確かに周りはがやがやとしていたけど、オレらの距離なら聞こえていたはず。
どうしてなにもなかったかの様な顔をするんだ。
「...浜田さぁ」
「ん?」
「彼女できたの?」
一瞬ぴたりと時間が止まったような感じ。
だけど浜田はすぐに笑って、なにそれどこ情報?と言った。
「オレの知ってるやつ?」
「な、なんだよ急に。いいから片付け...」
「オレじゃ嫌なの?」
「..泉、近い...」
「嫌?」
浜田の首元を掴んだ手が、体が、震える。かっこわりぃ。
なにも言わない浜田に嫌気がさして、キスをしようとした。
浜田はびっくりした顔をしたあと、目をぎゅっ、と閉じた。
...なんで、抵抗しないわけ。
「...いず、」
浜田の口が開いたと同時にキスをした。一瞬びっくりしたと思ったら、なぜか受け入れてくれた。
なんで。なんで浜田、抵抗しねーんだよ。
「...ん、」
「は..」
やってしまった。後悔なんて、ないけど。
だけど、どうして浜田は受け入れた?なんで、簡単にキスさせてくれんだよ。
「浜田、お前...彼女いんだろ」
「だ、だから...どこ情報なんだよ..」
「...梅原先輩に、聞いた」
そう言うと、浜田の体がぴくりと動いた。
なにその顔。
「...いる、よ」
「は?」
「彼女、いる...」
なんでそんな泣きそうな顔してるわけ。俯いて見えないようにしてるんだろうけど、まる見えだから。
つかオレのが泣きてーんだけど。浜田今、彼女いるって、言ったよな?
「じゃあ、」
じゃあ、なんで...
「なんで、抵抗しなかったんだよ...っ、」
ふざけてんじゃねぇぞ。同情とかいらねんだよ。
オレは浜田の気持ちが知りたいだけなんだよ。
「そ、れはっ...」
「...遊び?遊びで男とキスすんの?からかってんの?」
「ち、ちがっ!そうじゃなくて...」
「じゃあなんだよ!」
目をキョロキョロさせながら言葉をちゃんと発しない浜田についイライラして怒鳴ってしまった。
あぁ、くそっ。こんな自分が、一番むかつく。
「オレっ...」
ぎゅっ、と浜田に抱きしめられた。
なにこれ。なに考えてんだ浜田。
「いずみ、が...好き...っ、」
ぎゅうっ、と抱きしめていた浜田の手は震えていた。
なに、もう、意味わかんね。だって浜田、彼女いんだろ?
「い、泉が好きで...でも諦めなきゃ、ダメだから...だから、彼女、作った...」
「なっ...ふざけんなよ、お前!オレの告白、聞いてたくせに!!」
「わ、わかってる、勝手なことは...だって信じられなくて...泉を諦めるのに必死で...ごめん、ごめん...」
肩が濡れていく。浜田、泣いてんのか?
なんかよくわかんねーけど、諦めるとか信じられないとか、ばっかじゃねぇの。
「...彼女とか、今は関係ないからさ」
「、え...?」
「オレは、浜田が好き。浜田は?」
多分赤いであろう顔を浜田の胸に閉じ込めて隠した。
声は普通を保った、つもりだったが、少し震えていたみたいだ。
浜田がぎゅっ、と強く抱きしめてきた。
「好き...泉が、好きだよ..!」
「...あそ、」
ならよかった。そう言って浜田に抱き着いた。
オレもばかだけど、浜田はもっと、倍以上ばかだよな。オレを忘れようとすんなんてさ。
好きなら好きって、ちゃんと言わなきゃ伝わんねーのにな。
でもオレも、こんなばかが好き、ってとこが、ばかだよなぁ。
ま、今が幸せなら、いいけどな。
end.
→あとがき
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