前拍手文

□涙で語る愛の言葉
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屋上に行くのが日常茶飯事だった。
いつものオレらの場所。
日差しは暑いけど風が気持ち良くて、サボる時や弁当の時、ここを使ってる。
それがオレらの、場所だった。

「..あ、ご、ごめっ!」

バチンッ!!
静かな屋上に渇いた音が響いた。
じんじんと頬が痛い。
泉はなにも言わず、走って逃げて行った。
なに、したんだ、オレ。
いつもみたいに泉と弁当食って、昼寝してる泉がすごくかわいくて...
キス、しちゃった、んだ...

「浜田!?すげぇ腫れてんじゃん!!女か!?」
「お前付き合ってたっけ?」

屋上から離れて歩いていると、梅と梶に会った。
う、うるさいな...人が落ち込んでる時に!

「うっせ、ちげーよ!」

久しぶりに怒鳴ったオレを見て、二人はびっくりした顔をした。
わりぃ、と一言言って教室に戻った。
人に当たっても、意味ねぇのに。

「おら、席つけー!」

教師が入ってきて席に座る。
前を向いた瞬間、泉と目が合った。
少し笑いながら片手を上げようとしたら、そっぽを向かれた。
ずきん、と胸が痛くなり、じわりと目頭が熱くなる。
なんでオレ、あんなことしちゃったんだろう。
でもオレは、泉が泉だから泉を好きなわけで、ずっと...ずっと、押し殺してきたのに。

「...こない、か...」

休み時間のたびに行ってた屋上にも泉はこない。
二人でいた空間に、一人ぽつん、とオレがいるのはあまりにも虚しくて、泣けてくる。

「オレのばか...」

壁に背中を預けてずるずると落ちる。
予鈴が鳴った。教室、戻ろう、かな。サボりたいけど...
重い体を持ち上げて、教室までの道のりを歩く。
ドアを開けようとしたら、開ける前に向こう側からいきなり開けられた。

「!!」
「え、あっ、あのっ」

泉が出てきて、びっくりした。
慌てて言葉を出そうとすると、顔を背けられた。
ずきん、と胸が痛くなった。こんなの、はじめてで、苦しい。
じわりと涙が浮かんで、溢れそう。
もう、ダメなのかな...
ねぇ泉、もうダメ?もう、無理なのかな...オレのこと気持ち悪い、って思ってるのかな...苦しいよ...
泉はオレを避けて教室から出て行った。
授業がはじまっても、泉は帰って来なかった。

「...ただいま」

暗い部屋に電気をつける。途端に明るくなった部屋に目が慣れなくて、しょぼしょぼする。
屋上に行っても、泉は来なかった...完璧、嫌われたよなぁ...でも、このまま終わんのなんて、もっと嫌だ。
明日、ちゃんと泉に言おう。

ーーーーーー。

「!」
「あっ...!」

今日は朝練がないと田島に聞いていたので、泉がいつも通る道で待ってた。
泉はオレを見た瞬間目を反らして俯いた。

「あ、あのっ...俺っ!」
「悪かった!」
「...へ?」

言葉を遮られたと思ったら、謝られた。
意味がわからなくて一瞬ぽかん、としたが、殴ったこと、と泉が言ってすぐに気づいたのでオレも謝った。

「いや、俺の方こそ!キ、キスしてっ...ごめん!!」
「こ、声がでけぇんだよ...」
「ごっ..ごめん!」

顔を真っ赤にさせながら言う泉がかわいくて、抱きしめたくなる。
だけどもうそんなことできないから、ちゃんと言おう。オレの気持ちを。

「あ、あのっあれは...っハンパな気持ちとかじゃなくて、その...なんつーか...」
「...浜田さ、」
「えっ?」
「...ほ、..ホモ、なのか...?」
「えっ、いや...えーと...あの...」

なんて答えればいい?ホモって言ったら気持ち悪い?
だけどオレは、ホモとかじゃなくて、男なら誰でもいいってわけじゃなくて...

「ホモ、っていうか...泉にだけ、だけど...」
「っ、え」
「...あは、ごめんね、オレ...キモくて..でも、もう、終わりにするからさ...」
「なっ、」

泉を好きなの、もうやめるよ。
そんなすぐには無理だけど..いつか諦めてみせるから、そんな顔しないで。
オレの気持ち、聞いて。

「ただ...気持ちだけはちゃんと伝えたくて...」

すぅっ、と息を勢いよく吸った。
バクバクと心臓がうるさい。

「オレは、泉が好きだよ。そんだけ、言いたかった...じゃ、ね」

くるりと泉とは反対方向を向いて、歩きだす。
涙が出そうになるのを堪えるために下唇を噛んだ。
これで、いいんだ。

「っ...い、嫌じゃねーよ!!」
「...え?」

涙が出そう。そう思った瞬間、後ろから泉の声が聞こえた。
嫌じゃ、ない...?
振り向いたら、今にも泣き出しそうな泉の顔が目に入った。

「...っか...勝手に終わらしてんじゃねーよ!ふ、普通...男にいきなりキッ..キス、なんかされたら、ビビるに決まってんだろ!!」
「泉...」
「..でも、嫌じゃねぇだなんて...オレ、も...お前が、...好きってことかよ...!?」

手に持っていたかばんがずるりと落ちた。
なにを、言ってるのかわからなくて。
好き..って、泉が、オレ、を...?

「なっ...、い、泉!?」
「っ...屋上...お前がいなきゃ、つまんねんだよ!!」
「っ..!」
「...意味、わかるよな..」
「う、うん...」

まさかのまさかだったから、びっくりしてなにも言えなかった。
好きで、好きで好きでしょうがなかった泉が、今オレの腕の中にいることが嬉しくて。
思いっきり泉を抱きしめた。
とめどなく溢れる涙は、泉を好きだと語っていた。



end.


→あとがき


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