前拍手文

□諦めることなんて、できない。
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アイツと笑ってられるなら、オレはいいんだ。
一方的なオレの想いを口にしたら、困るのはアイツ。

「好きだ」
「...え」

あぁ言ってしまった。
絶対に、言ってはいけなかったのに。
オレの言葉を聞いて、目の前の浜田はぽかん、としていた。

「は...?え、冗談だよな?」

そうだよ、冗談。なにだまされてんだよばーか。
言えよ、そう言え。
そしたら思わず出てしまったオレの想いも、浜田の中では冗談になる。
でも、嘘じゃないから。
冗談じゃないから、言えない。

「泉...?冗談だろ?」
「本気だっつの」

目の前の浜田はびっくりして、目を宙に泳がせていた。
まぁ、そりゃそーだろ。
中学時代の後輩(現同級生)の、ましてや男なんかに“好きだ”と言われれば、戸惑うだろう。

「あ、わかった!泉、またオレをからかってるな!?もうその手には乗らないぜ!」

あ、今すっげーむかついた。
からかってる?
んなわけねーじゃん。
オレは浜田の腕を掴み、近づいた。

「ふざけんなよ。からかってるわけねぇだろ」

そう言うと、浜田は黙った。
あーあ、オレばかじゃん。
これで終わっちゃうのかよ。

「...あのさ」

オレが一言発すると、浜田は体をびくっ、とさせた。

「...困る、だろ」
「え...」
「だから...オレがお前を好きだって言ったら、困るだろ..」
「そ、んなこと...」
「あんだろ」

すると浜田は黙った。
あー、なんで言っちゃったんだろ。
ほんとばかかオレは。

「...浜田」
「え..」

ぎゅ、っと浜田を抱きしめた。
浜田の方が背が高いから、肩に腕を回して抱き寄せた。

「い、いずみ...」
「....」

オレは黙って強く、ぎゅっ、と抱きしめた。
なぁ、なんでオレじゃだめなんだよ。
オレを見ろよ、浜田。

「...わりぃ」

す、っと手を離すと、泣き出しそうな浜田の顔が、オレの心臓を脈打たせた。

「...泉、俺っ..」
「言うなよ、わかってっから」

聞きたくない。
浜田から“ごめん”なんて。

「...っ、ごめん...でも、ありがと」
「っ...!言うなって..言ってんだろ...!ばか浜田..!!」

ごめん?
でもありがと?
なんだよ、それ。
オレはそんな言葉、聞きたくねえ!!!!
浜田の首元に手を回し、顔を近づけてキスをした。
すぐ離れた、触れるだけのキス。

「い、いず、み..」
「...諦めねぇかんな」

オレは浜田が好きなんだ。
簡単に諦めて、たまるか。

「泉...」

そんな目でみんな。
悪いのはオレだ。
オレは、最低なやつだよ。

「浜田、ごめんな」
「...」

最低なやつでごめん。
無理矢理キスしてごめん。
好きで、ごめんな。
零れ落ちそうな涙を必死に堪えて、オレは浜田に背を向けた。
すると、いきなり手を引っ張られた。
オレは急いで振り向くと、浜田は泣きそうな、苦しそうな表情で俺を見ていた。

「浜田..?」
「き、気まずくなんの、嫌だから...」
「...うん」
「オレ、泉のこと、嫌いじゃないよ...?けど、そういうのはやっぱ...ごめんな..」
「...わかってる」

だから何度も言うな、泣くぞ。と言うと、浜田はわたわたした。
オレはそれに少し笑い、さっきまで堪えていた涙はどこかに消えていた。

「泉、あの...図々しいかもしれないけど、これからも友達として仲良くしよーぜ?...な?」

泣きそうな顔してんなよ。
見てるこっちが、泣きそうになる。
でもまー、こいつのこんなとこも、好きなんだけど。

「当たり前、だろ。」

オレは少し笑った。
すると浜田も少し笑ったような気がした。

「...オレ、やっぱお前のことすっげー好き」
「え!?や、あの...」
「今だけな。明日からは、もう困らせたりしねーから」
「あ...うん..ごめん」
「...だからもう謝んな!」

浜田の背中を笑いながら叩いて言うと、浜田もいって!ひどい泉!と、いつもの調子に戻してくれる。
そんな浜田が、オレは好きだ。
ま、諦めるなんてこと、しねーけど。



end.


→あとがき


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