ショートSS

□白猫と、人間.後編
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少し前、闇金紛いの事をしていたヤクザ達の金をかっさらっていったときだった。
尋常じゃない運と力をもった代打ちがいると耳にした。
あの鷲巣まで地に伏せさせたという。

姿は白髪の赤目だと……

「―――っ!」

そこで零は目を覚ました。
記憶を辿る夢。起きた心地がしなかった。
まだはっきりと頭に残っている夢の代打ちの容姿…

(あの…人…?)

まさか。零は自身をあざ笑った。
都合良く話が噛み合ってしまうと、ろくな事しかない場合が多い。
嫌な予感しかしない。なるべくなら容姿がその人と合わないようにして欲しいと零は思った。

「零」

「うわっ!!」

ぬるりと男の手が零の腰を撫でた。

(そういえば一緒に寝てたんだっけ…)

「…おはようございます」

まだ顔を枕に埋めている男に恐る恐る話しかけると、服の裾を引っ張られた。

「おはよう、零」

うっすら、笑みを浮かべてじゃれてくる男。
相変わらず頬を舐めたり、抱きしめてきたりと猫のような仕草をする。
だが零は相手をする前にまず聞かないといけないことを優先した。

「…名前。聞いてないんですけど」

「あぁ。あんたは知らなかったよな」

「……」

‘あんたは’と言う言葉に零は怪訝な顔をする。
なぜ男は自分の名前を知っている?

「…どうして…どうして俺の名前を知っているんですか。それに他にも聞きたいことが沢山……っ!」

零がすべて言い切る前に、男に口を塞がれた。
あまりの突然さに思わず強く男を突っぱねてしまう。

「な、何して…!?」

「…詮索は自分の身の安全を確保してから言うんだな。坊主」

「…っ!?」

突然耳元で囁かれた言葉。
背筋が凍りつきそうな低い声。猫が威嚇しているそれにも似ていた。

「自分の…身…」

零は男の言葉を繰り返す。
すると男はニヤリと不適に笑い、何事もなかったかのように零を抱きしめた。
だが言葉はまだ冷たい。むしろどんどん冷たくなっていく。

「あんたは大勢に囲まれたら終わりだね。ヤクザを舐めない方がいいよ」
「…っ!」

「捕まったら何されるかなぁ?物好きもいるから…マワされるかもね」

「なっ……」

「可愛いからなぁ…何回犯されるかなぁ…」

「…!!」

手が震える。
背中が汗でじっとりとしてきた。

「俺だったら1日中するかなぁ…」

「なっ…!?」

驚いているのもつかの間。すぐに男がべろり、と零の首元を舐めた。

「っ…!」

「恐がればいいよ。あんたはまだ子供なんだから…」

すると男は急に零を引っ張り上げ、カーテンの閉まる窓際に寄せた。
行動に訳が分からずただじたじたしていた零だが、外の様子を見てその動きは止まる。

「あ…あの人は…」

「俺を追いかけてたグループだ。俺を守ったせいであんたの正体がばれちまったみたいだな。俺とお前。2人とも捕まえてどうにかしようって事だ。人気のないところに入って見ろ。襲われるぜ」

すると男はまた突然に零を抱きしめ、ベッドに押し倒した。

「時には守られるのも、悪くないと思わないか?」

「……は?」

その言葉を理解したのは意外とすぐだった。
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