ショートSS
□白猫と、人間.前編
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(また居た…)
遠くに、周りの空気と馴染まない、不思議な雰囲気を纏っている人を零は見つける。
よく部活帰りに見るその人が、なぜか零は気になって仕方なかった。
染めているのか綺麗な白髪で、顔色も薄い。格好からしてあきらかに男だと判断できるが、美しい顔立ちは女そのものだった。
いつもふらふらと歩いていて、気づけば消えている。
(気まぐれな野良猫みたいだ)
零はいつものように、そう思うのだった。
ある雨の日、いつもの帰り道。
意識的に男を探してしまう零。
だが、ふと今日は周りの空気に違和感を感じた。
何か危険が迫ってくる前の静けさのような…
‘ドンッ’
「わっ…」
「おっと…」
ふらり、零がよろける。
そのまま地に倒れそうになったが、それをぶつかった相手が支えた。
「悪い。痛くねぇか?」
「!!」
(白髪の、男…)
零は目を疑った。
いつもはふらふらとしているはずの男が今、目の前にいる。
少しパニックになっていた零。だが、刹那耳に届いた罵声で意識が切り替わる。
「待てクソガキっ!!」
「!」
近づいてくる声。
そして男を見れば、どこか焦ったような、そうでないような表情。
零はすぐに状況を把握した。
(逃げないと…!)
「こっちだ…!」
「は?…て、ちょっと…」
追いかけられているのだろうが、白髪の男は悪い人ではないと思った零は、その腕を引っ張り走り出した。
(朝遅刻しそうになった時に通る道…!)
裏道に駆け込むと、正確に、迷うことなく零は走っていく。
白髪の男はそれに黙ってついて行った。
だが、零が考えているほどうまく話は進まない。
「!そんな…」
朝はいつも開いている金網状の扉に今日に限って鍵がかかっていた。
上に跳べば進めるが、その高さは人間がギリギリ飛びつけるぐらい。
余程の握力がなければ捕まることは出来ない。
戻ればタイムロスどころか確実に男達に追いつかれるか、はち合わせ。
零は責任を感じ、どうにか男を逃がそうと手を打った。
自分が犠牲になることを選んで。
「少し待っていて。俺が男達の相手をするからその隙に逃げてください」
「…」
白髪の男は頷かず、代わりに零の体を自分に寄せた。
「な、何してるんですか!」
「…ほんとはあんたに助けてもらう必要はなかったんだけど」
「え…」
突然の言葉に、零は言葉を失う。
「迷惑…だった…?」
「いや、別に」
「じゃあ何で…」
「何でって…あんたが勝手に引っ張っていった訳だし、それに…」
「手分けして探せ!!」
「!!」
近い。
もう逃げられないと確信した零は、たとえそれが迷惑であったとしても、何とか白髪の男を逃がそうと、前へと踏み出す。
だが、また引き寄せられてしまった。
「このままじゃ捕まる…!」
いよいよ焦りだした零は、ジタジタと男の腕の中で暴れ始めた。
だが男は飄々とした表情で、零を強く抱き締めた。
「掴まってろ。すぐ逃げられる」
「……!!」
刹那、男の表情が
変わった。
ざわっ、と周りの空気が揺れる。
男は、気づけば猫のような耳と尻尾を生やし、低い姿勢を取り始めた。
そのすぐ後、
「うわあっ!?」
体が浮いた。
と思ったら着地している。
後ろには金網。
「と…飛び越えた…!?」
唖然とする零。