ショートSS

□rH−
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深夜、出かけた帰りに街中をあるいている赤木を見た。
声をかけようとそちらを向くが、その足はそこで止まる。

「…!」

ゆらり、赤木がこちらを睨みつけた。




赤木と自分は所詮違う環境を生きてきた人間。

(あの人と俺は、違う)

違う個体だから。という安易な意味ではない。
作る空間も、生きている環境も、自分が作っていく環境も真逆の生き物だった。
最初はそれがすれ違いになったが、零は気にしなかった。
喋れば受け答えもしてくれるし、買い物だってついていってくれる。
赤木はそういう性格なんだと理解していた。
…つもりだった。

(俺は、まだ何も知らない)

当然帰っても赤木は部屋に居ない。
あの後驚きと恐怖で頭が真っ白になった零は、赤木の声を聞くことなくその場を足早に走り去ってしまった。
一体どこに行ってしまったのだろう。零は不安に思う。
だが今も脳裏にべっとりと付きまとう、あの凍り付くような表情。

(俺たち…どんな関係だったっけ…)

脳裏に浮かぶのは先日の行為。
そうだ。自分たちは世間に大っぴらに出来ない仲。こんなちぐはぐでも恋人同士。

一緒に住むきっかけは、赤木に好きだと告白されたから。
でもそれは興味を示したという意味かもしれない。
観察されているだけなのかもしれない。
じゃあ何であんな事をするのだ。

(あんな…)

赤木の、僅かに微笑む顔が一瞬浮かんでは消える。
刹那湧き上がる気持ち。

(赤木さん…)

怖い。だが嫌いにはなれない。
もう中毒なのかもしれない。零は自分を嘲笑った。

「……零?」

「!」

突然、部屋の扉が開く。
振り向くと赤木がいた。
服に汚れがないのを見ると、ヤクザに絡まれていたわけではなさそうだ。ひとまず安心する。

「俺も今帰ってきたとこで…ご飯、レトルトでもいいですか…?」

「何でも良い」

「分かりました」

いつものようなやりとりを交わした後、零が台所でレトルトのカレーを探す。

(あれ…一個しかない…)

いつも二人分あるはずのレトルトがない。
いつの日か食べたのだろうか、と首を傾げる。
すると台所に赤木が入ってきた。

「すみません…レトルト一つしかなかったみたいで…他にないみたいなんで買ってきます」

少し、赤木から離れて頭を冷やす時間が取れると思った零。だが赤木は目を細め零を睨む。

「俺はいらない」

「え…でも…」

「いらない。お前が食べろ」

「…赤木…さん…?」
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