進セナ小話 3

□閑 話 〜秋の風 さわさわ
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夏休みが終わると夏が終わるって感覚なのは、まだ学生だから。
八月の最終週くらいから、もう虫の声とか聞こえてたわよなんて、
お母さんから言われて、あ・ホントだ、なんて、今頃気づいてるあたり、
社会人より呑気な筈が、案外と期日に追われてる立場だってことなのかなぁ…って。

そんなことをお話ししてたら、あのね?
お隣りに並んで座って“うんうん”って黙って聞いてくれてた進さんが、
ふと…こちらへ向けて、やっぱり黙って手を伸ばして来て。
「…はい?」
大きめの手は、肩口の首の近く、
そろそろ揃えた方がいいのかも知れない、
ちょこっと伸びてた襟足の髪に触れたので、
“あやや…。/////////”
頬に微妙に触れてない、そんな距離が余計に熱い。
でも、なんか、大仰に避ける気はしないまま、
頼もしい腕を、お顔の間際にじっと見てたら、
「…小さいのが。」
やわく握った拳を引いて、進さんがそっと広げると同時に、

  ――― ぴょんっ、て。

小さな小さな緑色の何かが外へと跳ねた。
すぐにも姿は見えなくなって、
「あ…っ。」
「何とかいうバッタだ。」
「小さかったですね。」
あまりに不意だったんで、セナにはそこまで見て取れなくて。
これも動態視力の差かしらなんて、
またまたちょっぴり、進さんを凄いなぁと感心してみたりする。




お互いの講義の空き時間を突き合わせての水曜日。
専攻した時間割の中、セナも進さんもたまたま、午前までしか埋まってなくて。
結構長く重なってる時間帯だからって、
進さんがこちらのご近所までをわざわざ走って来てくれている。
勿論、セナの方からも、途中で鉢合わせ出来るようにって、
同じルートをこちらから、お元気に出発しているのだけれども。
ちゃんと食休みをしなさいと選りにも選って進さんから言われたせいもあって、
いつだってこっちのガッコ寄りで、お顔を合わせてばかりいる。
そんな彼らが並んで座る土手の上には、まだ夏の名残りも色濃く、
青々とした草が目一杯に茂ってそよいでて。
この時期は赤ちゃんバッタやカマキリが、
あちこちでぴょんぴょんと元気よく跳ねてる最中でもあるらしく。
「あらら、とまってましたか。」
気がつきませんでした、ありがとございますと、
嬉しそうに“はにゃん”と笑ってお礼を言えば、
「…礼はいい。」
そんな…あのでも、ボクが驚くんじゃないかって思ったんでしょう?
いつぞや毛虫で大騒ぎしたの、ちゃんと覚えてて下さって。きっとそれで。
「………。」
進さんは、いつだってそう。
そうだとも違うとも、何にも言わないことが多くて。
そんなところを、
寡黙で無愛想だからって、冷たい人だとか怖い人だとか誤解されてて。
ホントはそんなことないの、気がついた人にさえ、

  ― もう済んだことだから、逐一言っても詮無いと。

敢えて聞かれたらそんな言いようをするほどに、そっけないにも程がある奴でねと、
いつだったか桜庭さんが苦笑しながら言ってらしたけど。
それって、

  ― ズボラだから…とかじゃあないと思う、セナだったりし。

“さんざん怖がってたボクが言っても説得力ないかな。”

自分だって、初対面の時からひどく及び腰でいたものね。
進さんは本当に強くて、誰にも…自分にも恥じない、強靭な自負を持ってる人で。
だから。
いいかげんな気持ちで彼の前に立つのが恥ずかしくなる。
何につけ弱腰で、逃げてばかりいた自分が、ともすれば責められてるみたいで、
それで怖かった、居たたまれなかったんだと思うセナであり。
でも。
その傍に、ぐんとすぐ傍に寄れば、あのね?
寄るなと拒むように、睨むように寡黙なんじゃない、
何を話せばいいのかが分からなくての“無口”なんだっていうのが判ったの。
『手をつなぐ力加減ってのが判らないなんていうんだぜ?』
自分がいかに物凄い剛力なのか、さすがに自覚はしてたんだなって、
やっぱり桜庭さんが笑って教えてくれて。
でも何だか。
悪く言うって言い方じゃあなくって。
今だから判るのは、桜庭さんも進さんのこと、いい奴なんだって判ってて。
本当は、ただ不器用なだけなんだってこと、怖い人じゃないよってこと、
それをもっといっぱいの他の人にも知ってほしかったんじゃないのかなって。

「………。」

見つめてくれる深色の眸が、とっても柔らかくなって、
そうそう、いつからか、特に話しかける言葉が浮かばないと、
その代わりみたいに、セナの髪をぽふぽふと撫でてくれるようにもなって。
大きな手のひらはこの頃、髪を梳いて下の肌をそぉっと撫でてくれるから、
ドキドキしちゃってしょうがなくって。

「…?」
「あ、あ、あのあの…っ。////////」

ついついほやんって緩みかけてたの、怪訝に思われたのかなぁ。
あわわって慌てて気を取り直せば、
先程…顔の間近へ手を伸ばしたのへは全然慌てなかったものがこの反応だ、
進さんの側でもちょっこと息を引いてしまわれたらしく。

「あ、えと、だから…っ。////////」

ついでに引っ込みかかってた手を、わしっと両手で捕まえたセナだったのは、
逃げないで、とか、そういうつもりでの、
本当に咄嗟の行動だったのだけれど…。

  “ううう〜〜〜〜。////////”

ああもう、自分でも何やってるかなって呆れちゃう。
進さんのことを偉そうに言えない、
自分だって突発事態に弱くってとっても不器用だってのにね、と。
ごめんなさいで頭がいっぱいなっちゃって、
あううって涙目になりかけていたらば………あのね?

  ――― ぽふぽふ、って。

ちょうど二人の内側になってた方の手、セナの背中側から回してくれて、
それで“落ち着きなさい”って、髪を撫でてくれた進さんで。

  “ああ、やっぱり。進さんて優しいなぁ。“

頬っぺがますます赤くなった、小さな韋駄天くんの足元では、
こちらはバッタと違ってなかなか姿を見せないコオロギが、
まだまだ幼い鳴き方で、それでも涼しい声を聞かせてくれてて。
もう少ししたら空がずんと高くなり、
そしたら彼らもこんな悠長はしてられなくなるのだけれど。
今だけ、あのね?
夏の間、お互いの合宿で逢えなかったの、埋めたっていいよねって。
時々からりと乾いた風の吹き来る中で、
こっそり言い訳してたりするセナくんだったそうですよ?


  ― 進さんて。
    んん?
    ホントは仔犬とか仔猫とか大好きなんでしょう?
    そうでもないぞ。
    だって。毛並みに似てるから撫でてくれるんでしょう?
    …そんなことを言ったか?
    あ。いえ。
    犬猫は傍にいてもあまり意識したことはないが。
    あれれぇ?////////





     〜Fine〜  06.9.06





 *それよりも、それは誰が言ってた説なんだ。
  あ、えとうと、十文字くんがやっぱり髪の毛撫でてくれるんですけど、
  そしたら蛭魔さんがそんな風に言ってて。
  そういえば、蛭魔さんも時々ボクのこと撫でてくれてたし、
  ほら、蛭魔さんチにはキングちゃんがいて…。
  進さん? 何考え込んでるんですか?

  結構鈍感かも知れないセナくんだってのへ 5000点。倍でドン、10000点vv

 *冗談はともかく。
  進さんって結構語ってますよね。
  殊にアイシールド21に関しては何時間でも語れそうな勢いですし。(笑)
  どこの武士かというほど、高倉健さんみたいな口調で話す人で、
  でもやっぱり、結構、自分の見解は喋る人でもあって。
  何で“寡黙で物静か”だって設定になってんだ? ウチのサイト。(おいおい)







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