■年の差パラレル 3

□夏 名残り
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     ◇


 絹糸のようなつやのある金の髪が、時折吹く風に ふわりあおられては、軽やかに躍るのが。パピヨンとかいう仔犬のようで、何とも可憐で愛らしい。華奢な首元をすっきりと見せるは、セーラーカラーのデザインシャツで。腕も脚もすらりと細っこい、それでいて伸びやかな若木のような肢体を包むは、濃青の半ズボンに純白のハイソックス。足元には一丁前にもデッキシューズぽいデザインの黒い革靴と来て。いかにも制服のようなコーデュネイトが、これまた厭味なく映える麗しさ。
どこのナショナルスクールに通っておいでのクォーターさんですかと、誰もが惚れ惚れ振り返る、ビスクドールみたいに端正なお顔と白い肌した男の子の手を引くのが、これまた…欧州版のメンズ雑誌から抜け出て来たかのような。白面金髪、長身痩躯の美丈夫なもんだから、人の目の集まりようも半端じゃなくて。

 「…恥ずかしいっての。////////」
 「何だよ、
  凄げぇ似合ってるぞ?」

 父ちゃん、お前のそういうデコラティブなカッコ、見たくて見たくてしょうがないのに。

「それが流行りか知らないが、
 色気のないカッコばっか
 してんだもの。」

 自分を父ちゃんと言うこの御仁。とはいえ、こちら様のいでたちもなかなかのもので。亜麻色のサマースーツに、されど今はネクタイまではしていない。襟なしの代わり、濃色のアクセントが襟の縁や胸ポケットへと入ったデザインシャツが、なかなか小粋に似合っているし、ちょいと崩した着こなし方も上品にして華麗。

“ウチじゃあ、
 いつのだそれっていうよな
 古着っぽいTシャツに、
 いかにも高校のだろって
 トレパン姿でいやがるくせによ。”

 おおう、そりゃまた極端な。(笑) いわゆる大人の余裕で、いつだってにっぱりと笑っておいでのお父様。そんなせいでか、突然戻って来た胡亂な男の割に、ご近所での受けもいいらしく、

「それを言うならお前こそ。」

 阿含や葉柱くんには素のまんまでいたくせに、家へ近づくといきなりあれこれ取り繕ってやがってよ。

「ハス向かいんチの奥さんへ、いきなり片言で喋り出したときゃあ。熱でも出したかって驚いたのなんの。」

 この人は、あのあの、ボクのおとーさんです。これから、お世話になると思います、よろしくして下さい…だってよ。思い出してのことだろう、うくくと喉奥を鳴らして笑い出す父上へ、
「…うっせぇなっ。////////」
 見栄えはモデルばりに決まっているのに、こそこそと交わす会話が過激で乱暴で。

 「笑えるったら
  ありゃしない親子だねぇ。」

 まだ少しほど距離はあるのに、飛び抜けた視力を持ってでもいるものか…二人の唇を読んでたらしい待ち合わせのお相手が、会話を読んでの苦笑を洩らす。その懐ろに抱え上げられていた小さな坊やがうんうんともがいたので、

「判ったよ、
 でも駆け出しちゃダメだぞ?」

 念を押してから足元へと降ろしてやれば、すぐの傍らに立っていた連れの、折り目の立ったズボンのお膝あたりに掴まって、一緒に行こうよぉとのお誘いをかけるから、

「しようがないかの。」

 苦笑をこぼしたのは、どこぞかの高名な陶芸家…という風情のする、ちょっぴり壮年のおじさまで。手を引いてやってのお望みの方へと歩き出せば、向こうもこちらを見つけての手を振って見せる。

 「お待たせしました。」
 「いやなに。
  そんなには待ってもおらん。」
 「ヨーイチっ♪」
 「くう、久し振りvv」

 この年では恥ずかしい、父上とのお手々つないでを振りほどく理由になるからと。相手の連れていた幼子へ駆け寄れば、

「おしょろいvv」
「あ…ホントだ。」

 そちらさんが着ていたのも、今やお懐かしいマリンルック風のセーラー服もどき。愛らしい金髪の水兵さんが大小二人になったものだから、周囲からの声なき どよもしもまた、そのボルテージが上がった模様。
それでなくとも此処は…都心とは思えぬほど、目にも鮮やかな緑多き一角。今宵、各界から特別な招待客ばかりを集めてのオープニング・セレモニーが予定されている、ハイソなビル街のゲイトであり。照明を仕込んだ噴水でさりげなくも…セレブやエグゼクティブと、一般の通りすがりとの境界を分けるその端境に立った、こちらの一際あでやかなご一行には、映画俳優かモデルとでも勘違いしたものか、テレビ局のものらしいカメラがこぞって向けられもしたものの。その直前に、黒服が飛んで来て、彼らの姿をきっちりと庇う徹底振り。

 《 俺はともかく、
   こんな目立つトコに
   来てもいいのか?
   あんたたち。》

 《 ごめん、
   今宵の仕事なんだ。これ。》

 《 うむ。
   今頃、どこぞから、
   特別な招待客が
   国際会議のために
   会場入りしておろうからの。》

 こそそと、どこのだか知らない外国の言葉で会話を始めた大人たちの足元では、

 「此処って、
  屋上にすごいでっかい
  ドームの公園があって、
  そこに東洋一っていう
  天体望遠鏡があるんだって。」

 「ぼーえんきょ?」

 そっちも公開前だけれど、今夜だけの貸し切りで特別に見せてもらえるからと。それで釣られたらしい、意外な趣味もある小悪魔坊や。小さな弟分へ、それはにこやかに…半分くらいは大人たちへの協力を意識しての、いかにも愛らしく笑いかけてやっており。大人たちのお顔はカバーされたものの、足元までは想定外だったものか。そんな麗しくも愛らしいツーショットが、翌日のワイドショーの画面のあちこちにちらほらと飾られて、いかに華やかな催しだったかの効果へと使われ。それを見た葉柱や桜庭、セナくんや阿含さんが、それぞれなりに笑ったり吹き出したりするまで…あと16時間ほど、待たねばなるまいて。(苦笑)



  〜Fine〜


  07.8.26.〜9.03.


お父さんは
ちゃんと居着いておいでの模様です。
しかも、蛭魔くんの姿で、
なのになかなか愛想もいいらしく。
大人だからこその余裕…とはいえ、
ちょこっと違和感、
感じちゃいますね。うんうん。(苦笑)



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