■年の差パラレル 3
□夏 名残り
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だから、と。訊き返されての繰り返すのが、葉柱的にちと辛いのは、これが言わば“愚痴”だから。そして、そうだという自覚もあるから。
「子供離れした何かしら。
そうだな、
例えば…夏の初めに、
俺らに張りついてる奴が
いるらしいってことへ、
あいつなりに対処しようと
構えやがったろ?」
「ええ。」
余計な手は出すなと葉柱が先にクギを刺したにもかかわらず、じゃあこれみよがしの監視をつければ牽制になりゃしないかと、そんな策を捻り出してた妖一であり、
「そういうことへの相談には、
必ず歯医者を選びやがる。」
いろいろな方面へと顔が利くとか、本人も武道の心得があって頼りになるとか。頼るだけの理由もあろうけれど、それを繰り出しての坊やがしたかったことってのは、突き詰めれば
― 葉柱を守ってやりたかった、
ということだ。
もしかしたらば、その過程をこそ楽しみたかったのかもしれないが、それでも。放ってはおけないと思ったからこそ動いた彼であろうし、その相棒に選んだのがあいつとあって、坊や本人から順番をつけられたみたいで。
「…。」
そこんところが、少々引っ掛かっていた葉柱であったらしく。だってのに、
「なぁんだ。」
ヨウコさんたら、にべもなくのすっぱりと。そのくらいのことと言わんばかりに、斬って捨ててる頼もしさ。う…っと、いかにも不服そうにお顔が尖った葉柱へ、
「い〜い? そういうことの相棒にって、ヨウちゃんが阿含を選ぶのはね。あいつなら多少の悪さ、屁とも思わずにこなせるからよ?」
こちらさんも結構怖い物知らずであるらしく。そんな恐ろしいお言いようを畳み掛けるように言ってやり、
「例えば。葉柱くんて、
意図してのことに限ったならば、
せいぜい、
ノーヘルでの
スピード違反くらいしか、
悪さって出来ない人でしょう?」
「う…。」
売られたケンカを買ったとか、生意気な奴を相手にいかにもなドスを利かせた声で恫喝したとか、そういうのも細かく言えば悪さかも知れないけどサ、
「阿含は…場合によっちゃあ、
どっかへ忍び込んでみたり、
ちょいと拝借なんて
物をくすねたりだって
出来ちゃうからねぇ。」
「それは…っ!」
勢い込んだ葉柱が何を言わんとしかかっているかもお見通し、
「言われりゃ出来る?
そこが、葉柱くんを
“相棒”に選ばない理由の
その2。」
「? え?」
鋭い間合いにて発せられたる一言に、即妙に機先を制され、しかも…その2なんて冷静に突きつけられて。あ"?と、少々間抜けなお顔になった総長さんの。案外と細い峰をしたお鼻を、指の先にてちょちょいとつついたヨウコさんが言うには、
「ヨウちゃんはね、
葉柱くんには
そゆことをさせたくないのよ。」
自分が言えば、いやさ、自分がそうして欲しいらしいなと読んだなら、葉柱くん、迷いもしないで犯罪行為だってやっちゃうかも知れない。
「でもね、
そんな悪いことへの片棒なんて
担がせたくはないの。」
何だったら時計を戻して、素の顔を知らせないまま出会い直しての“天使みたいにいい子の妖一くん”って存在でいたいのかもしれない。その方がより一層、危ないことへの一丁咬みをさせないで済むでしょう?
「アテにする・しないじゃなく、
大切にしたいから。
だから、
危ないこととか
警察沙汰になりそなこととかには、
声をかけたくはないし、
関わらせたくもない、
知らせたくもないのよ。」
合宿へついてったのだって、ずっと一緒にいたいから。お父さんの動向も気にはなってたけれど、それよりも。天秤にかけたら、やっぱり葉柱くんと一緒にいたいって気持ちが勝ったからでしょうに。
「あれほどの子に
そんだけ大事だって思われてて、
そんな顔はないでしょう?」
「う…。/////////」
これらもまた、うがった言いようをしたならば、彼女の憶測に過ぎないはずだのにね。メッと、身を乗り出すよにしての叱咤の眼差しを下さるヨウコさんにあっては、
「判った?」
「…はい。」
そんな揚げ足取りなんて出来ようものかと、威勢で負けた カメレオンズの元総長。とはいえ、
“…あれ?”
何でだろうか、ちょっとだけ。ちょいと鬱屈していたがゆえの胸の塞がりようが、少しは晴れたような気もして来て。人との会話の、これも効用…とまでの悟りはなくとも、
“どんなことが原因であれ、
俯くのだけは やめたげてよね。”
いつだって自負にあふれて胸を張ってる、威容のある葉柱くんが、妖一だって大好きなんだろうからと。目に見えての活力を取り戻したお兄さんへ、その坊やによく似た守護天使様、くすすと甘やかに微笑って差し上げたのでありました。