アドニスたちの庭にて 2

□春も間近い 甘い風
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    ◇◇◇



 社会人の皆様には決算だ届け出だ、異動に配置転換だといった、最終年度末のあれこれが吹き荒れる大変なシーズンでもあろうが。それは学生にも同じこと。俗に“中だるみの”なんて言われるような、受験には関係のない年の身であれ、それならそれで、進学にかかわる単位の集計がなされる頃合いであり。補習や提出物で何とか出来ることならばという、心づくしの補填をして下さる親切な先生や教授に当たればいいけれど。出席と提出物と定期考査の点数しか参考になさらぬ先生ならば、ともすりゃあ既に留年が決まってしまっている顔触れが出るのもこの季節。

 「……あ。」

 それぞれの御用が済んだら一緒に帰ろうと、学舎前で待ち合わせたお友達の姿が目に入ったものの。あれれぇ? 想定外のお連れさんたちもいるような。緩いスロープがそのまま正面玄関のエントランスへ連なっているロータリー前。他にも四時限までの講義を終えて帰ろうという学生らでごった返す空間に、一際目立った長身が二人ほど立っており。そんな彼らとは実に対照的、そちらさんこそがセナの待ち合わせのお相手、雷門太郎くんと、演劇サークルの看板、甲斐谷陸くんたちのすぐ傍らにいるということは、彼らの連れだということか?

 「セナ。」
 「こっちだ。」

 向こうさんからも見つけてもらえて、それを限(キリ)に“それじゃあ”と、背丈がやたらとあった二人の方が、手を挙げたり目礼したり、会釈を残して立ち去ってゆくようなので、

 「…やっぱり
  お知り合いなの?」

 「やっぱりってのは何だ。」

 「だって…。」

 開口一番に主語も何もすっ飛ばした訊きようをしたセナもセナだが、モン太くんにせよ陸くんにせよ、それで通じているらしいのだから世話はなく。

 「今のって、
  大和くんと本庄くんでしょ?」

 確か自分たちの1学年下という後輩さんたちで、まだ高等部の生徒なはず。殊更ちみっ子なこっちもこっちだが、それと比較しなくとも ずば抜けて長身なことでも有名な人たちで、かてて加えて、英語での弁論大会ではあの高見さんと一、二を競い合ってた秀才と、スポーツ万能の寡黙な天才として、全国区でも注目を浴びてた人たちだもの、知らないはずがないじゃないかと続けかかったセナだったけれど、

 「大学部への持ち上がりの
  進級試験の結果が
  出たらしくてな。」

 「つか、あの二人が、
  俺らの“弟”だったってことは
  知らんだろ。」

  「…………はい?」







 ……………………
  ………しばらくお待ちくだ


  「ええええええっっ?!」


 ちょっと待って下さいな、陸くんは中等部からの、モン太くんは高等部からの外部入学組でしたよね? いやいや、だからって“弟”を持っちゃいかんという決まりはありませんが。でもだけど、あんたたちはそれそれに野球と演劇という、熱中するものがあった人たちだし、高等部に在学中にそんな素振りやエピソードなんて一つも……、

 「三年の頃の
  あれこれの記載は
  ほとんど無かったじゃんか。」

 「そうそう。
  その間のことだったから。」

 「〜〜〜〜〜。」

 こらこらこら、サイトの更新レベルの話を持ち出すんじゃない。(まったくだ・笑)
この学園の高等部に限っての、公式ではないが歴史あるしきたりの一つ。何とも覚束ない様子の下級生へ手を差し伸べて、学内ではこの私が“兄”となってあなたを導き守りましょうとの名乗りを上げる。双方の同意の上での誓約をし、仮の兄弟という間柄になる…という、言わば契りを結ぶよな習慣があって。
束縛や屈服を強いるような強制力などはないけれど、自分が恥ずかしい真似をしたならばお兄様まで恥をかく、弟までもが笑われてしまうという格好で、それぞれの素行へもいい影響が出ようというもの。増してや…例えば高名な兄がいる立場となったなら、例えばそりゃあ愛らしい弟を持った立場となったなら、それなりに注目も集まるし、お互いの気心にも尚増しての引き締まるものが加わろうからと。奇妙な習わしではあるけれど、教師の皆様も黙認したまま、ずっとずっと続いており。
かくいうセナだって、今も仲よくしていただいている剣道部の通年全国チャンプ、進清十郎さんが、高等部時代のお兄様だったりするのだが、

 「あんな目立つ二人が、
  えと…あの。//////」





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