アドニスたちの庭にて 2

□散桜緑風
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終盤は
結構寒かった冬だったのに、
それでも
今年の桜は随分と
早めに咲いて、
あっと言う間に満開となった。
蛭魔さんが
教えてくれたんだけど、
桜は
一旦キュッと冷えることで
花芽が目を覚ますのだそうで。

 『だから、
  関西よりも東京の方が
  咲き始めんのが早いんだよ』

 『うあ、そうなんですか』

東京より西というか南なのになと、
前々から不思議に思ってた
セナとしては、
思わぬところで
知ることが出来た
“掘り出し知識”だ。

 『…なんだ? そりゃ』

 『え? ですから、』

不思議だとか疑問だとか、
あんまり思ってなかったこととか、
それほど知りたいとは
思っていなかった蘊蓄とかを、
何かの拍子に知るのも、
それはそれで悪くはないけれど。
どうしてなのかな
知りたいなと
ずっと思ってて、
いつも答えを書き込みたい
“引き出し”が用意されてたことが、
ほれと思いがけなく判るだなんて、

 『何だか此処んトコが
  じわって暖かくなるほど
  嬉しくてvv』

そう言ったセナが、
まだどこか子供っぽい造作の
小さなお手々を、
ぱふり、重ねて伏せたのが、
自分の胸の上
だったりしたものだから。

 『…そういう仕草とか
  顔とかはな、
  奴ンだけ見せてろ、
  糞(ファッキン)チビ。』

 『はやや〜っ☆』

どこから出したか、
マシンガンの台尻で
おでこグリグリをされてしまい。
居合わせた桜庭さんや高見さんに
引き分けられたは良かったけれど、

 “何が何やら
  判らないままに
  されちゃったんだっけ。”

そこまでは割と
機嫌よくお話ししていた
蛭魔さんが、
何でまたいきなりの
“乱暴モード”に
なっちゃったのだか。
突拍子がない人だってのは
重々判ってたつもりだったけれど、
それでも何だか、
あの時のは極端にも
程があったような
気がしたセナで。

 「…わっ。」

ふ〜むなんて考えながらの、
気もそぞろで歩いてたせいか、
前兆があった筈なのにも
気づけずに、
真っ向から吹きつけて来た風に
お顔を叩かれ、
あわわと目許をしばたたかせる。
幼稚舎から初等科、
中高大学、大学院まで揃っている
白騎士学園の、
そのほとんどの学部の
正門が居並ぶがため、
とんでもない数の在学生たちが
ぞろぞろと登ってくことから、
地元では“白騎士坂”なんて
呼ばれてもいる、
長い長い坂の途中。
手前の高等部の正門へと
駆け込んでった、
彼にしてみりゃ
後輩格の生徒たちの中に
隠れ切っていたほど、
ずんと小柄な彼ではあるけれど。
これでも立派な大学生です、
小早川瀬那くん。
しかもしかも
幼稚舎から通ってる
身なのだから、
今の時期は
思いがけない強さの
突風が吹くことも、
重々知ってたはずなのにね。
それぞれの学部の門へとかかる、
花の庇か笠みたく、
そりゃあ見事な緋色の枝が、
上から順にゆらゆらと、
強い風に煽られ、
揉まれて揺れて
降りて来るのがまるで、
緋色の波濤が
なだれ降りて来るよに
見えるから。
それがとっても
幻想的で綺麗だからと、
むしろ話途中でも気がついて、
その淡緋の波がやって来るの、
夢見るようなお顔で
待ち受けてしまうのに。
今朝に限っては
よっぽどぼんやりしていたか、
上手にお顔を逸らして
眺むる呼吸さえ忘れての、
きゃあと身をすくめるばかり
…だったのに。

  ―― ばさっ、と

確かに、
大きな強い風が
叩きつけるよな音はした。
坂の両側に並ぶ
桜たちの梢も大きく揺れていて、
同じように
大学の正門へ向かっていた
周囲の学生たちもまた、
思わず立ち止まって
風をやり過ごす気配がしていたし。
結構な大風が
吹いたには違いない。
なのに、

 “…あれれ?”

それにしては、
髪が少しほど
撒き上げられたくらいで
済んでおり。
こうまで油断していたからには、
ひどい時だと…
坂の傾斜もあってのこと、
風に押され負けての
よろめいた末、
すてんと尻餅ついたことも
ザラだったのにね。
あれれと不審を感じて、それで、
お顔を そおっと上げたれば。

 「…無事か?」
 「進さん?」

ちょっぴりお顔が
間近にあるよに見えるのは、
もしかして、
大仰には見えないように、
でも…セナへの楯に
なって下さって、
少しばかり
屈んでらしてのことかしら。
いつもは もちょっと
上に来るお顔とそれから、
いい匂いのする胸元とが
すぐ目の前に来てるのが、
なんか…いきなりで
ビックリしちゃった。

  それと、

真後ろから襲い来た風に、
少しばかり
髪を乱されておいでなのが、
あやや、どしよか。/////////
何だか あのその、
ボクは男の子なのにね、
ドキドキして来るのは
どうしてだろか。/////////

 「小早川?」

 「あ…あ、は、はいっ!
  とっても無事ですっ!」

思い切り大丈夫です、って、
なんか焦ってしまって、
大きく振りかぶり過ぎた
お返事しちゃったら。

 「…。」

特にお返事はなかったけれど、
でもね、あのね?
冴えた目許を少しだけ
細めての微笑って見せて、
とっても優しいお顔に
なってくださったので。
それから、あのね?
風に掻き回された髪、
ちょいちょいって直してくださった、
大きな手の温みが嬉しくて。


  講義は何時限目からだ?

  あ・えとえと、
  二時限目からです。

  早く来たのだな。

  はい、モン太くんと
  予習の約束をしてまして。


向かい合ったままでの
お話しになったのは、
次の大風の気配を感じた
進さんだったからかしら。
でもねえ……


 「あんな空気作って
  坂の真ん中に立ち尽くされると、
  後続者の迷惑なんだが。」

 「それをわざわざ、
  あの二人へ言えるお人が
  いると思いますか?」

 「正確には“進に”だろ?」

 「高等部時代だったら、
  蛭魔くんが蹴っ飛ばして
  注意して下さったんですけれど。」

 「…わざと持ち出してないか?
  高見くん。」


悪戯な東風に
はらはらほどけて
散り初そめて、
そろそろ桜も葉桜へ
移りゆく頃合い。
そんなこと知らないとばかり
春爛漫を堪能中の
誰かさんたちへ。
新緑の季節を前に
去りゆく桜に代わって…


  誰か何か
  言ってやったって
  くださいませ。(苦笑)





  〜Fine〜  08.4.16.





相変わらず
桜が大好きな筆者ですvv
ソメイヨシノや
コデマリの並木も好きですが、
一本桜も
威風堂々としてて好きvv
そして大阪では、
造幣局の桜並木の通り抜けvv
桜前線は
上越から東北地方を
邁進中の頃合いで。
青森は弘前の桜を、
必ずどこかで
大々的に中継してくれるのが
楽しみでvv
浮かれた頭で書くと
こうなるという、
大学生になっても相変わらずな、
皆様の近況でございましたvv




 

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