アドニスたちの庭にて 2

□カボチャはいかが?
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とあるJR路線の、
ちょいと郊外に
入りかかるすんでに、
実はJRより古いのでは
なかろうかという
閑静なお屋敷町があり。
その山の手、坂の上には、
某ミッション系男子校の、
初等科から大学院までを
取り揃えた
広大な敷地が存在し。
幼稚舎や初等科、中等部は
随分と後年に設けられたもの、
最も古いは高等部だとか。
そんなせいだろか、
伸び盛りの男の子たちの制服は、
幼い和子らが
ブレザータイプで
統一されているにも関わらず、
高等部のそれだけが、
古式ゆかしき詰襟で。
進路が分かれる
頃合いでもあるせいだろか、
いかにも
“特別”な時期の少年たちが、
そろそろ色づき始める木立ちの、
秋錦が彩る校庭のそこここで。
無邪気だったり
繊細だったりするお顔、
様々に
間見せてもいたりして……。






 「そういや、
  ここって
  ハロウィンの祭りは
  一切やんないんだな。」

何とはなく
秋めきの雰囲気出して
始めましたのに、
そんな風情など
知ったことかとのお暢気に、
それはあっけらかんとした
お声を発してくれたのは。
ここ、白騎士学園高等部の、
前生徒会を
副会長として仕切っていた
甲斐谷 陸くん、三年生。
実質は九月末に行われる
代替わりの選挙でもって
引退するのだが、
その直後の10月に催される
“白騎士祭り”の、
様々な指揮を執る
新規生徒会の補佐をするのが、
生徒会主幹らには
最後のお務めであり。
それを乗り切ったばかりの
まったりとした空気だからこそ、
ふと、
そんな他愛のないこと、
思いついたのやもしれぬ。
クラスが同じなのみならず、
大変な役職だった彼を、
見守る格好でお付き合いして来た
瀬那くんとしては、

 “いきなり暇になったんで
  気が抜けたのかなぁ?”

そんな感慨がちらり。
昔むかしは、
春の終わり頃からという
準備期間からを、
しっかと見守って来た
学園祭を仕切ってから、
選挙、交替という
流れだったらしいのだが、
それだと引き継ぎが
不十分なそれになる。
近年は特に、
学外受験も珍しくは
なくなったものだから、
三年生らは大学への
受験に専念せねばならぬので、
新生生徒会を
フォローしてやるどころじゃない
身となってしまう。
それどころか、
そんな先を思えばと、
指揮官向きの人望ある人材が、
だのに、受験に専念したいのでと、
そもそもの
会長や副会長への
推薦さえ受けてくれない
ケースも出たのへ、
これは少々由々しきことかもと、
案じられた時代が過去にあり。
その辺りから
こんな順番にずれ込んだのだそうで。
よって、
役職はとうに失効しているし、
慌ただしかった行事も終えて、
やっとのこと、
まったりを堪能している彼なれど。
そちらも退部している格好の
演劇部のクリスマス公演へ、
実は 客演参加することが
決まっているそうで。
そちらでのバタバタが
始めるのを前にして…という、
微妙な興奮や緊迫への
予兆も抱えてのこと。
尚のこと、
暢気な発言も零れてしまう
心境にあるらしく。

 「ハロウィンって、
  確か10月末日だよね。」

 「ああ。
  でもまあ、最近じゃあ
  夏休み明けたらって勢いで、
  まだまだ残暑も厳しいのに、
  フェスティバルだの
  フェアだの
  あちこちでやってるけどな。」

だってのに、
ここのガッコじゃあ、
あんまり関係ありそな
イベントをやんねぇだろ?と。
キリスト教の行事なのになと
不思議がっておいでで
あるらしいが、

 「う〜ん、
  最近こそ
  知名度も上がったけど、
  昔はあんまり
  メジャーなものじゃ
  なかったからじゃ
  ないのかな。」



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