アドニスたちの庭にて 2

□春を待つ
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春も間近で、
窓から差し入る陽射しが
随分と濃色になってきた。
窓辺にいる彼へと降りそそぎ、
その横顔を隈無くすっきりと
照らし出していたものが、
こちらを向くと、
通った鼻梁の陰を頬へと落として、
大人びた風貌をした彼の、
男臭くて精悍な面差しの
彫の深さを強調する。
いかにもスポーツマンらしい、
清潔さだけに気を遣った
髪形や身だしなみ。
生家が代々、
茶道の家元を輩出している
旧家であるのみならず、
嗜んでいるものが
合気道という武道であることから。
姿勢も態度も
清冽にして凛々しい彼は、
何に対してでも
真摯で誠実で真っ直ぐで。
嘘を嘘だと言える強さ、
ずっと持ち続けている
真っ直ぐな人で。
何かに負けて、
何かへ及び腰になって、
冷たい人だ、
酷い人だとなじられたくなくての
同情をしたり、
誤魔化されることに
“まあいっか”と丸め込まれて、
そのまま
迎合しちゃったことなんて
ないんだろうな、なんて。
頼もしい上背や体躯のみならず、
気持ちまで屈強なこの人に、
お兄様になっていただいてたこと。
果たしてどれほど
実になったんだろ、なんて。
この時期だからこそ、
自分を省みてしまう
瀬那くんだったりするのである。





     ◇



 何とはなく、空が鈍色をしていたので警戒はしていたが、ほとんどが屋内か屋根のある、ショッピングモールの中で過ごすのだから、大事はなかろうと思っての軽装で出て来ていた。

 「…あ。」

 周囲の雑踏がざわめいて、雨が落ちて来たことへ気がついたのとほぼ同時、ぱさりと、頭からかぶせられたものがあって。暖かくていい匂いがするジャケットは、頭からかぶっても小さなセナが中で迷子になりそうなほど大きくて。

 “ありゃりゃ…。////////”

 冗談抜きに、すっぽり覆われたそのまま、視界を封じられてしまったセナだったのを。ジャケットごとひょいと、爪先が道から浮くほど小脇に抱え上げてしまった、頼もしい腕の持ち主さんは、

 「急ぐぞ。」

 返事も待たずにたかたかと、渡っていた横断歩道をあっと言う間に駆け抜けて。

 “ふやぁ。//////”

 普段のそれは雄々しさが過ぎて、厳しいほど堅くも聞こえるものが、低められると柔らかな深みの増す声。ひょいと抱えてくれた腕や、引き寄せられる格好になった肢体には、日々の鍛練を積み重ねて まといつけた、頼もしい筋骨の充実した感触。ジャケットの中に籠もっていたのは、いかにも男の人という精悍な匂いで。ガレリアのあるアーケード街の入り口で降ろして下さったことで、ぼんやりと浸ってたそんな空間から出なければならなくなったのが、正直…ちょこっと惜しかったセナだったりし。

 「小早川?」
 「あ・あああっと、は、はいっ!」

 ほやんとしたままでいたのを案じられ、横合いからお顔を覗き込まれて、やっとのことで我に返ったほど。あんまり勢いのいいお返事をしたためだろか、通りすがりの女子高生たちにビックリされてから、クススと笑われてしまったが、

 「〜〜〜。//////」

 恥ずかしいようと、う〜〜〜って赤面していると、大きな手のひらがぽふぽふと、まとまり悪く撥ねている髪を撫でて下さって。

 “……… そですよねvv”

 久し振りにお会い出来たんだもの、進さん以外の誰かの目なんて、気にしてる場合じゃない、ですよね。あっと言う間に機嫌を直した小さなカレ氏の、含羞み混じりの愛らしい笑顔に遭遇し、

 「…っ☆」

 今度は進さんの方がたじろいだ、性懲りのない彼らなのも、相変わらずみたいですvv
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