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□やきもち妬きな彼
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「月…」
部活がもう終わっているだろうと思い、部室を覗くとあいつを呼ぶ声が途切れた。それは、月子と部活仲間であり同級生の宮地君と仲良く話しているのを見たから。俺といる時とはまた違った笑顔をあいつは彼に向けている。その事実がチクっと胸を締め付けるのと同時に俺の中であいつに対する独占欲のスイッチが押された。

「月子は俺よりも宮地君の方がいいのか…?」

俺はあいつを支えることは出来るけどそれだけしかできない。けれど、彼は違う。彼は月子のライバルで、お互いを支え合い、高めることが出来る存在だと思う。だから、もしかしたら俺よりも宮地君の方があいつにとっていいパートナーになれるのかもしれない。


だとしても、一度手に入れた月子を手放すなんて考えたくない。やっと、この手で抱き締めることができたんだから。あいつを幸せにするのは俺の役目でありたい。でも、その役目を奪われたら?そう考えると怖くなる。

俺に気がついた月子は、宮地君との会話を終え、「お疲れ様」と笑みを向けた。俺の方へ向く。

「錫也!すぐ着替えてくるから待っていて」

そう言うと去年の夏に出来た女子更衣室へと入っていく。しばらくすると夏服に身を包んだ月子がポニーテールを揺らし走ってくる。

それから俺たちは並んで歩き出す。けれど、俺の頭には先程の光景が離れずにいて。気がつけば、隣にいる月子の何度目かわからない呼び掛けで、月子に呼ばれているのがわかった。

「錫也!錫也ってば」
「ああ、悪い…。どうしたんだ?」
問いかけると、俺と向き合うように月子が前に来て顔を近づけてくる。
「どうしたのってそれはこっちのセリフだよ。さっきから上の空だよ?何かあった?私には言えないことなの…?」
続けざまに質問を投げ掛けてきたこいつの瞳は哀しそうで。
(何をやっているんだ。俺は)
月子の頭を撫でならがら
「心配しなくっても大丈夫だよ。ちょっと考え事していただけだから」
「錫也はいつも誤魔化して何でもないフリするの知っているんだからね」
「月子……。でも、本当に対したことじゃないんだ」
「嘘。じゃあ、なんで哀しそうな表情していたの?」
こいつは、自分のことに関してはかなり鈍い。だけど、特に俺や哉太の事に関しては幼い頃から一緒にいるからかよく気がついたりする。

「…参った。呆れずに聞いてくれるか?」
するとあいつは「どんな錫也も錫也だし、私が錫也を好きなのは変わらないよ」と笑う。愛しさが一段と込み上げて、腕の中に何よりも愛しい存在を抱き締める。

「恥ずかしいから、このまま聞いてくれるないか?」
「うん」

「さっき、宮地君と話していただろ?それにやきもちを妬いただけだよ」

「え…?だって宮地君とは話していただけだよ?」

「知ってる。だけど、二人とも楽しそうに話していただろ?だから、宮地君に月子を持ってかれるのかと思うと不安だったんだ」

「それは…」
理由を聞いた次の瞬間、俺は見事に固まった。

「本当にそれだけなのか…?」

まさか、二人の話の内容が俺の料理の話題なんて思ってなくって。確かに、宮地君は月子と話す以外でお菓子…特に甘いものの話をする時は嬉しそうに話す。

そして、月子の顔が嬉しそうだった理由もこれで理解ができた。

「ってことは…俺は俺の料理について話す月子にやきもちを妬いたことになるのか……」

「もう、私が錫也以外を好きになることはないって何回言ったらわかってくれるの?」


「月子のことは信頼してるよ。けど、仕方ないだろ。これとそれは別なんだから」


月子の想いを疑うことはないけれど、大切なものを失うのが怖いからやきもちを妬いてしまう。それが、幼なじみであれ、彼女の部活仲間だとしても。


END
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