オトメイト

□終わらない夏空
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 時計の針が一秒一秒、音を立て時間を刻んでいく。また繰り返されようとしている7月29日。

 何度、ツリーの歌を聴いたのかすらわからない。何度も繰り返された【7月29日】。
幾度も繰り返し、過ごしたあの夏が再び巡ってこようとしている。

 綿森楓はツリーに背を預け、空を仰ぐ。
また小川葵の記憶から綿森楓という存在が消えて、「初めまして」からのやり直し。

 どんな出会いをしても、彼女は自分だけに微笑みかけることはない。葵が学校に通ってない場合の方が多く、科学部のメンバーよりも葵と過ごした時間の長さは楓の方があるだろう。
 だが、葵が一番笑っているのは科学部に所属している時だけ。


 いくら葵が【明日】に希望を見出し、ループを終了させても1年ループが開始され、7月29日に戻される。この繰り返し。

 ――終わらない夏空が再び巡る。

「葵、今度は君とどんな話をしようか。
新たな君の紡ぐ物語の結末を僕が見守るよ。
君の【明日】が、希望に満ち溢れているように僕が祈ってるから。だから、君は【明日】を怖がらずに受け入れてほしい」

  願わくば、君が笑っている未来が訪れますように――…。

(君の笑顔を僕だけに見せてほしいなんてことは願わない。君の記憶を奪ってしまった僕にそんな資格を手に入れることはできないだろうから。でも、君の幸せを願うことだけは許してほしい)


 いつか、永遠に続くループが終わりを告げ、世界が【7月30日】を受け入れることを願いながら、新たに紡がれる【7月29日】の物語へと綿森楓は向かっていった。

 終わらない夏空が、また始まる。

END
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