オトメイト

□ひざ枕
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千鶴が溜まっている繕いものを自室でしていると原田左之助がそこに訪れてきた。
「千鶴、いるか?」
「はい、どうぞ」
千鶴は針を止め、縫っていた隊服を膝の上に一旦置く。彼は部屋に入り彼女と向き合う位置に腰をおろして座る。左之助は彼女の横にも置かれている繕い物を見てから彼女に視線を戻し問いかけた。

「なぁ、千鶴。最近働きすぎじゃねぇか?」
「そうでしょうか……?」
左之助の記憶が正しければ昨日は一人で沢山の洗濯物の山を干したり、それを綺麗んでいる姿を見た。他にもご飯の当番や庭の掃除などもしていたのを彼は見ている。――彼女のこういった行動は昨日今日に限らずだが。それは千鶴が自ら己が出来る仕事を進んでやっているからだ。


「自覚なし、か。千鶴は頑張りすぎるところがあるからな。少しは休むことをおぼえた方がいいんじゃねぇか?」
「ですが、私にできることなどこれくらいしかありませんし…。皆さんの役に立ちたいんです」
「千鶴。おまえはよく頑張っていると思うぜ?」
ぽんぽんと左之助の大きな掌が優しく千鶴の頭を撫でる。
「原田さん……」
「それに千鶴は心配しなくとも、ちゃんと役に立ってるよ」
「本当、ですか……?」

「あぁ。だから少し休めよ。ほら、俺の膝を貸してやっから」
そう言うと細い千鶴の腕を引き、頭を己の膝の上に乗せた。一瞬、何が起こったか理解できず、今の体制に気がつくと頬が朱に染まり始めたのが判る。それと同時に、慌てて起き上がろうとするがそれは左之助によって止められた。

「ほら、じたばたせずに寝ろよ。時間になったら起こしてやっから」
「ですが、そうしたら原田さんが疲れるのでは…?」
(それに恥ずかしい……)
「俺は平気だぜ。千鶴、いいから横になれよ」
「……では、お言葉に甘えさせてもらいますね」

千鶴は左之助からの好意を無駄にするのも申し訳ないと思い素直に従うことにした。

「おう」
左之助の大きな手が千鶴の頭に触れる。それがくすぐったいと思うが心地よさもあった。
「原田さんってお兄さんみたいです」
そう微笑むと溜まっていた疲れのせいか瞼が重くなるのを感じ瞳を閉じる。
「・・・そっか。千鶴みてぇな可愛い妹ならいつでも大歓迎だぜ」
朦朧とした意識の中、左之助の言葉を聞くと共に千鶴は意識を手放した。
「・・・ったく、安心しきった顔で寝やがって」
彼女の規則正しい寝息を聞き、寝たのを確認すると左之助は呟くようにそう言った。

(いつか兄貴じゃなく男として見てくれる日が来てくりゃいいがな)
そんなことを思いながら。


END
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